第11話 レベル上げ

「ふん!」


目の前の巨大な魔物の首を跳ね飛ばす。


――デスベアー。


体長5メートルはある巨大な熊型の魔物で、俺がここ最近狩っている相手だ。

Aランクの魔物だけあってかなり強い。

このレベルになるとパーティーで狩るのが常道だが、俺はこいつを単独で相手している。


「ふぅ……ずいぶん楽になって来たな」


デスベアーを狩り始めて既に1ヵ月経つ。

最初は結構ギリギリな戦いだったが、こいつを倒すとかなり高速でレベルが上がってくれるので、最近ではずいぶん楽になって来た。


現在のレベルは戦士が5から25に上がっている。

能力的には2割程度のアップだが、これが結構馬鹿にならない。


それとレベルが上がった事で、スキルも二つほど習得出来ていた。


突進力を高めるダッシュと、腕力を上げるパワーだ。

どっちも効果はほんの一瞬で、しかも待機時間クールタイムが結構長いので連発出来ない。

だがここぞという時に使えば、その効果は絶大である。


「さて、次だ」


デスベアーはたいして金にならない相手だ。

というか全くと言っていい。

人里から離れているので安全確保の討伐依頼などは当然ないし、素材としてみてもほぼ無価値だ。


俺がこいつらを狩るのは、完全にレベル上げの為である。


正直、俺は少し己惚れていたのだ。

サブクラスを手に入れ、ゲゼゼにあっさり勝てた事で、自分は強いんだと思い込んでしまっていた。


――世界を知らない故の幼稚な不遜。


だがその思い込みは、ゲゼゼ達との揉め事で遭遇した賢者によって粉々に打ち砕かれている。

その時感じた屈辱と敗北感。

それが俺に強烈な強さへの渇望を生み出した。


それがこのレベル上げの発端だ。


「ふん!」


狩人の探索で次の獲物を見つけた俺は、動く際に気配を押さえるパッシブスキルを持つ盗賊で素早く奇襲をかけた。

そして攻撃の瞬間戦士へと変更し、しっかりとダメージを通すべくスキルのパワーを発動してデスベアーを背後から斬り付ける。


先制で魔法を使わなかったのは、今の俺程度の魔法だと、このレベルの相手には殆どダメージが通らないからだ。


魔法には、剣と違って20年の積み重ねが無いからな。

当然差は出る。


「ぎゃおう!?」


肉と骨を切り裂く感触。

切断とまではいかなかったが、奴の後ろ脚の一本に大ダメージを与える。


だが相手は強力な魔物だ。

痛みを無視するかのように素早く振り返り、此方へ反撃してくる。

俺はそれを、素早く後ろに飛んで避けた。


「ぐぅぅぅぅ……」


デスベアーが唸り声を上げて、ゆっくりと間合いを縮めて来る。

その後ろ脚からは、大量の血が溢れ出していた。

これが弱い魔物なら、時間を稼ぐだけで相手は失血でやがて動けなくなってしまうだろう。


だが、デスベアーは凄まじい生命力を持った魔物だ。

悠長に時間稼ぎなどしていたら、折角与えたダメージが回復して傷が閉じてしまう。

そのため、速攻をかけるのが正解である。


「いくぞ!」


ダッシュを使って一気に間合いを詰める。

盗賊に変わるより、流石に此方の方が早い。


「はぁ!」


ベアーが手を薙ぐが、それを躱して奴の首元を斬り付ける。

硬い感触だ。

致命傷には程遠い。


だが構わず攻撃し続ける。

肩を、顔を、首を。

相手の攻撃を躱しつつ、俺は斬って斬って斬りまくった。


「ふぅ……」


攻撃する事31回。

やっと魔物が沈む。

もう油断さえしなければ負ける心配はないとはいえ、やはり手ごわい相手だ。


「転職屋の方のレベルが上がったな。ん?この感じ――」


レベルが上がったのは転職屋の方だが、スキルに変化を感じる。

何か新しく習得したのかもしれない。

俺は自分の内側に意識を集中し、それを確認してみる。


「スキルがレベルアップしたのか」


新スキルではなかったが、『サブクラス付与』のスキルのレベルが2に上がっていた。

レベルが上がった事で、同時に二人までサブクラスを付与できる用になった様だ。


「うーん。やっぱ自分に二つは無理みたいだな」


駄目元で自分にもう一つサブクラスを付けようとしたが、駄目だった。

戦士プラスその他の前衛が出来れば相当なパワーアップを見込めたんだが、やはり世の中そう甘くはない様だ。


「仲間……か」


このスキルを活かすのなら、誰かとパーティーを組んだ方がいいだろう。


……ずっとソロってのもアレだしな。


高難易度の依頼は、単独では受けられない物が多い。

いくら強くても、個人では限界があるとギルドが判断する為だ。

そのため、冒険者として名を上げるにはパーティーが必須である。


とは言え、『サブクラス付与』は余り周りに知られたくなかった。

特殊なスキルだからだ。

知られれば、それを利用しようとする欲深い奴に振り回されかねない。


なのでペラペラと吹聴しそうない奴は論外だし、組むなら信頼できる相手でないと駄目だ。


「とはいっても、そんな奴はいないんだよなぁ」


20年間訓練ばかりで、人付き合いなんてほとんどどしてこなかった俺に伝手はない。

まああれこれ手を伸ばすと中途半端になってしまうので、今はレベル上げだけに集中するとしよう。


「さて、もう一狩していくか」


俺は気持ちを入れ替え、狩りに戻る。

レベルを上げて少しでも強くなるために。

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