第9話 反撃

俺の取れる選択肢は二つ。


このままこの場から去るか。

全員叩きのめすか、だ。


前者は確実に相手からの攻撃が続く。

一人ぶちのめして逃げられたぐらいで諦めてくれる様な奴らなら、そもそも襲撃なんてしてこないだろう。

今後は人数を増やしたり、狡猾な手段を使ってくるのは目に見えている。


その対処法としては、別の街に逃げて身分を隠す事だ。

そうすれば見つけられる心配は無くなる。


――うん、ないな。


身分を隠す事は、イコール、冒険者を止めるという事だ。


冒険者として活動すれば、どうしても記録が残るからな。

そしてAクラスのパーティーなら、コネでその情報を手に入れる事も容易い。

ギルド長がゲゼゼを歓待していた辺りからも、その事が良く分かる。


「糞みたいな奴等の言いがかりで冒険者を止めるなんて、ありえない。やるしかないな……」


必然的に、俺は二つ目の選択肢を選ぶ事になる。

奴らをぶちのめすという選択だ。


実力差を見せつけて諦めさせる。


もしそれでダメそうなら――最悪殺すしかないだろう。


「出来れば人殺しなんてしたくはないんだけど……」


痛めつけても諦めない相手は厄介だ。

執念深く復讐しようとして来るのが目に見えている。

そうなると、もう殺す以外の手はない。


「たしかゲゼゼのパーティーは6人だったよな。その場合、残りも見つけ出さないと」


襲撃のメンバーに居ないからと言って、関わっていないという保証はない。

残りのメンバーに探りを入れ、問題がある様ならばそいつらも始末する必要がある。


ま……最悪の場合だがな。


人を手にかける。

少々憂鬱な事ではあるが、20年来の夢を捨てるという選択肢がない以上、その時は覚悟を決めるとしよう。


「取り敢えず」


「ぐぇっ……」


俺は倒れて呻いていた男の顎を蹴り上げ、気絶させる。

そして止血の為、足をきつく縛っておく。

足首の傷口が深く、放っておくと死にそうだったから。


――殺すかどうかは、他の3人を倒すまでは保留だ。


来たルート側を眺めるが、まだ人影はない。

ゲゼゼ達がここに来るには、もう少し時間がかかるだろう。

俺はサブクラスを狩人に変え、倒れている男が背負っていた弓と矢を奪う。


奇襲用の武器として。


1人倒したとはいえ、まだ相手は3人いるからな。

出来ればあの大男と魔法使いは、同時に相手をしたくない。


大男は確実にゲゼゼより強いだろうし、魔法使いは俺が奴らから逃げる際素早く反応して魔法をつかって来た。

かなりの腕前と考えていいだろう。

そんな2人を同時に相手にするのは、賢い選択とは言い難い。


だから奇襲で魔法使いを先に落とす。


その際に弓を使うのは、俺の魔法自体がショボいのと――魔法の訓練などこれまでしてこなかったので――魔法使いには魔法に対する耐性があるからだ。

先制できても、耐えられては意味がない。


それに魔力を使うと、距離が離れていても魔法使いに察知される可能性もある。

その場合、奇襲自体が成立しなくなってしまう。


「理想は前衛の二人が魔法使いをほったらかしにして、俺を追いかけて来てくれる事なんだが……」


前衛と後衛では足の速さが違う。

狩人の男が他の仲間を置いて来てしまった様に、ゲゼゼと大男が魔法使いを放って追いかけて来てくれいるとかなり楽になる。


それならゲゼゼを奇襲で潰し、大男とタイマンが出来るからな。


相手の実力が未知数である以上、出来れば不安要素を消しておきたいというのが本音だった。


「ま、それは無理があるか」


仮にもAランクパーティーの一員だ。

そこまでクルクルパーって事はないだろう。


そんな事を考えながら、俺は移動する。

周囲は見晴らしのいい平原だが、全く身を隠す場所が無いわけでもない。


大きめの岩影。

相手の進むルートをから身を隠せる場所に身を潜め、奴らが来るのを待つ。

暫くすると、遠くから近づいて来る人影が見えて来た。


「マジか……」


人影は二つ。

あの大男と、ゲゼゼだ。

つまり奴らは、魔法使いを完全に置き去りにする形で俺を追ってきた事になる。


「まあよく考えたら……あの狩人も一人で俺の後を追ってた訳だしな」


単独で追いかけて来たという事は、自分だけの力だけで倒せると判断したからこそだろう。

どうやら、俺は奴らに完全に舐められている様だ。


まあそれだけゲゼゼのパーティー内での評価が低いか。

もしくは、ゲゼゼが見栄を張って負けを脚色して――卑怯な手を使われたとか――仲間に伝えているかだ。


……まあ多分後者だな。


あの狩人の腕の程は、ゲゼゼと大差なかった。

俺を見下す要素はない。


「これから戦う相手の情報をちゃんと伝えないとか……」


ゲゼゼが馬鹿なお陰で楽出来て助かる。


「これはお礼だ」


走るゲゼゼに向かって弓を引き絞り、俺は素早く矢を放つ。

それは狙い通り奴の太ももに突き刺さった。


よし!成功!


「ぐわぁっ!?」


「なんだ!?どうした!?」


俺は弓を捨て、再びサブクラスをシーフに戻して奴らに突っ込む。

ポーションを使う隙を与えてやるつもりはない。


「てめぇ!!」


「どけ!」


「ちぃっ!」


――サブクラスを戦士に。


ゲゼゼに駆け寄ろうとしていた大男に向かって剣を振り抜く。

奴は辛うじて腰から剣を引き抜きガードするが、走った勢いが乗った一撃を受け止めきれず大きく後ろへと吹き飛ぶ。


「ぐっ……アマル。てめ――げふっ!」


倒れているゲゼゼの顔面に、俺は容赦なく蹴りを入れる。

奴は綺麗に吹き飛び、そのまま動かなくなった。


「てめぇ!コズはどうした!」


大男が大声で怒鳴る。

その額は、ぴくぴくと血管が脈打ってるのがハッキリと見て取れた。

相当頭にきている様だ。


ま、ふざけた理由で襲ってきたお前に怒る権利なんてないんだがな。


「コズ?ああ、あの狩人か。この先でおねんねしてるよ」


「舐めやがって」


大男が剣を捨て、背負っていた戦斧を手にする。


「ぶち殺してやる!」


「!?」


大男が突進してくる。

突然、その速度が急に跳ね上がり間合いが一気に詰められた。


戦士クラスのスキル――【ダッシュ】


効果はほんの一瞬だけだが、突進力が倍増するので間合いを詰めたりするのに便利なスキルだ。

残念ながらまだ俺は習得できていない。


「死ねやぁ!!」


奴は大上段に掲げた斧を、突進の勢いと共に振り下ろす。

破壊力はありそうだが、そんな雑な攻撃など喰らってやるつもりはない。

半身になる形で躱し、俺は手にした剣で奴の太ももを斬り付けた。


「ぐぅぅ……」


痛みに体制を崩したので、今度は奴の右手に向かって斬り付けた。

斬り付けられた手からは武器が離れ、大男はその場に膝を着いて苦悶の声を上げる。


戦った感想を一言でいうなら……弱いの一言だった。


ゲゼゼがへこへこしていたのでもっと強いのかと思ったのだが、拍子抜けもいい所である。

これなら4対1で正面から戦っていても問題なく勝てていただろう。


いや、流石にそれはおごりか。

魔法使いが腕利きなのは疑い様がないからな。


「ふむ……見事にやられてしまいましたね」


「!?」


不意に頭上から声をかけられる。

驚いて見上げると、はるか上空に小さな何かが浮いているのが見えた。

目を凝らすと、それが人影だと分かる


……恐らく、一緒にいた魔法使いだ。


声をかけられるまで、その存在に全くきづけなかった。

地上に影が落ちていない事から、恐らく何らかの魔法による隠ぺいなのだろう。

それにかなり距離があるのにかかわらず、声もハッキリと聞こえる。

そちらも魔法と考えて間違いない。


ダブル――いや、トリプルマジックか……


飛行とその他2つ。

高レベルの魔法使いには、同時に二つの魔法を扱うスキルがあると聞く。


だが3つとなれば……それは間違いなくユニーククラスだ。


それも当たりの方の。


「予想してたより、遥かに厄介な相手だった訳か……」


天を見上げるような格好で、俺はそう呟いた。

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