第3話 レアスキル

「これは!?」


神殿の前で揉めたその数日後、俺は謎の大男が言っていたサブクラスという物を理解する事になる。

それもあっさりと。


「おっさん?どうかしたのか?」


「いや、気にしないでください」


驚きを思わず声に出してしまい、客に訝しがられる。

俺は平常心を装いつつ返事を返した。


「転職は終わりです」


「お!ホントだ!よし!今日から俺も魔法使いだぜ!」


男性は支払いを済ませ、ご機嫌で去っていく。

俺は早速上がったレベルと、自分の状態を確認する。


クラスレベルは魔物を倒したり、クラスに適した行動をとる事で経験値を取得して上がる様になっている。

先程の客を転職させて経験値が入った事で俺のユニーククラス――『転職屋』はレベルが50に上がっていた。


そして50に上がった事で、俺はあるスキルを習得する。


それは――


「『サブクラス付与』……」


意識を集中すると、スキルの概要が情報として意識に流れ込んで来る。


――それはメインのクラスとは別に、サブクラスを付与出来るというスキルだった。


「凄いぞ!これは!」


サブクラスはメインクラスとほぼ同等の機能を持っている様だった。


戦士を付与すれば戦士に。

魔法使いを付与すれば魔法使いにもなれる。


あの髭の大男が言っていた道――可能性とはこの事だった様だ。


だが俺は神の試練など乗り越えた覚えはないのだが……


話ぶりから試練を超えて手に入れる力の様にも聞こえたのだが、勘違いだったのだろうか?


「まあなんでもいい!これで俺は冒険者になれる!!!」


周囲の人間が遠巻きに、叫ぶ俺に奇異の目を向けて来る。

だが溢れ出る歓喜から、俺は雄叫びを上げずにはいられなかった。


まあ正確には、登録自体は既に済ませてあるのだが……


だが、『転職屋』のクラスで魔物と戦うなど自殺行為に等しい。

そのため訓練自体はしていても、冒険者として真面に活動した事はなかった。


だがこれからは違う。

俺は本当の意味で。冒険者になる事が出来るのだ。


「よし、使ってみるぞ!」


スキルを発動させてみる。

どうやらこのスキルにはレベルがある様で、現在サブクラスを付与できるのは一人だけだった。


だが全く問題ない。

必要なのは、俺を強化するための1つだけなのだから。


「これが戦士……」


戦士クラス特有のステータス補正と、初期からある身体強化のパッシブスキルが俺を大幅に強化してくれたのが分かる。

この力があれば、この前襲われた時の様に一方的に誰かに蹂躙される事なんてない筈だ。


まあ勿論クラスレベルはまだ1でしかないので、俺より強い人間は五万といるだろうが。

だがそれでも、俺の中に確実に戦うための力が芽吹いた。

それが嬉しくて仕方がない。


「早速クエストを受けてみよう」


クエストを受けたのは、この20年でたった2回だけ。

最初の1回目は、登録して直ぐに試しで受けていた。

その時は命からがら魔物から逃げ出す羽目になっている。


――それも最弱モンスター相手に。


二度目は7年前。

そしてその時も、俺は同じ魔物相手に討伐を失敗していた。


そこからはクエストを受けてはいない。

そのままの自分で魔物に挑むのは、無謀でしかないと二度の失敗で痛感させられたからだ。


それ以降は、『転職屋』に有効な戦闘スキルが出るのを待つ形でひたすら訓練だけを続けて来た。


「二度はダメだったが、今回は違う。三度目の正直だ」


俺は急いで家に帰り、剣や防具などの装備を身に着ける。

そして必要な用意を終わらせた俺は、7年ぶりに冒険者ギルドへと意気揚々と向かった。


35歳。

随分と回り道させられてしまったが、ここからが俺の人生の第二幕の始まりだ。


「このクエストをお願いします」


掲示板に張ってある紙を取って、受付カウンターへと持っていく。

当然選んだのは、過去二回失敗してしまった最下級の魔物――ビッグワームの討伐だ。


まあ正確には、奴の体内にある胆石の取集がこのクエストの内容ではあるが、倒さなければそれが手に入らない以上、実質討伐クエストと言って差し障りないだろう。


「冒険者証の提示をお願いします」


古ぼけた銅色の冒険者証を渡すと、受付の女性が少し眉根を顰めた。

ランクによって、冒険者証は色が変わる。

銅色はFとEランクの証だ。


「……」


受付の女性がチラリと此方を見た。


通常、次の色に変わるDランクに上がるには半年とかからないと言われている。

にも拘らず、俺の冒険者証は年季の入った銅色だ。

彼女がそういった反応をしてしまうのも、まあ無理はないだろう。


「20年前と7年前に、同様のクエストを失敗されているようですが……大丈夫ですか?」


冒険者証には、個人の活動記録が保存されている。

当然失敗の記録も。

それを見て、受付の女性が訝し気に俺に尋ねた。


次も失敗するんじゃないのか?


そう言いたいのだろう。


「ええ、今回は大丈夫です」


それに対して、俺は胸を張って自信満々に答えた。

恐れる必要は無い。

依頼を達成し、目の前の女性に見せつけてやろう。


この俺――アマルが冒険者であるという事を。

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