第4話 リベンジ

ビッグワームは最弱級の魔物だ。

とは言え、その強さは神のギフトを授かる前の人間では、到底太刀打ちできない位には強い。


現に、20年以上歯を喰い縛って訓練を続けて来た俺が勝てていないのだ。

魔物だけあって、人間とは生物としての根本が違う。


「さて……」


門から出た俺は、街道を外れた草原を10分ほど歩いた場所でビッグワームと遭遇する。

街からかなり近い場所だが、彼らが街や街道に侵入してくる事はない。

それらには、魔物除けの処理が施されているからだ。


特に街には強力な処理が行われているので、余程強力な魔物でもなければ近づいて来る事はない。


「リベンジさせて貰うぜ」


ビッグワームは全長2メートル、直径30センチほどのミミズの様な姿をしている。

但しミミズなどとは違い、その頭部と思しき部分には太く鋭い牙を持つ。


その特徴から一見鈍重そうに見えるが、バネの様に跳ねて襲い掛かって来る瞬発力は凄まじい。


一度目はその飛び掛かりを避けきれず腕が折られてしまい、俺は逃走した。

二度目は相手の動きには対応出来ていたのだが、俺の斬撃では奴に浅い傷しかつける事が出来ず、最終的に討伐を断念している。


そう――奴の体は一見柔らかそうに見えるが、その実、鉄ように硬い。


戦闘クラスでなければ、奴に勝てない最大の理由がこれだ。

普通の人間では真面にダメージが与える事すらできないのだから、勝てる訳もない。


だが今は違う。

俺には戦士としてのギフト――サブクラスの力が備わっている。


――今度こそ勝たせて貰う。


「ぎゅううぅぅぅぅ」


剣を手に取り、ゆっくりビッグワームへと近づく。

此方に気付いた奴は、頭部を持ちあげ威嚇してくる。


これ以上近づけば攻撃するぞという警告だろう。

だが俺はそれを無視して更に近づく。


「ギャギャ!!」


奴が体を多く仰け反らせる。

そして次の瞬間、此方に勢いよく飛び掛かって来た。


――だが俺はそれを容易く躱す。


「はは、こいつはスゲェや」


戦士クラスのパッシブスキルと能力補正は、反射速度も大幅に強化してくれている。

そのため、今のビッグワームの攻撃が俺にはまるでスローモーションの様に感じられた。


「ギュギュウ!」


着地と同時に、連続して奴は飛び掛かって来る。


――今度は俺の攻撃がどの程度か試させて貰う。


かつては全力で斬り付けて、薄皮一枚程度だった。

だが戦士クラスについた事で、俺のパワーは3倍以上に跳ね上がっている。

当然破壊力は3倍――いや、スピードも大幅にました事で更にそれ以上だ。


「はぁっ!」


ビッグワームの攻撃を躱しながら振った俺の剣は、何物にも遮られる事無く真っすぐに振り下ろされた。


まるでそこに、何の障害物もなかった様な手応え。

だが外れたわけではない。

その証拠に、体が二つに分かれたビッグワームの姿が地面に転がっている。


「これが戦士の力……」


想像以上の結果に、俺は身震いする。

と同時に、ズルいという感情が強くこみあげて来た。


――戦士に覚醒した奴らは、ずっとこんな力を使っていたのかという感情が。


「そりゃ、敵わんよな……」


クラスの力が強烈だったというのは、勿論分かっていた。

だが自分で使った事で、その恐るべき力を更に実感する。


ホントずるいわ。

この力。


「お、レベルが上がったな」


戦士のクラスレベルが1から2へと上がる。


レベルアップによる恩恵は2つ。

一つはステータスへのボーナスだ。


レベルが1上がる度に、そのクラスに必要な能力に1%のボーナスが付くと言われている。

カンストのレベル99まで上げれば、能力は1,98倍――まあ実質2倍だな。


そしてもう一つがスキルだ。

クラスに有効なスキルを、一定レベル毎に取得する事になる。

たしか最初のスキルはレベル5だったはず。


「さて、じゃあ次に行くか」


俺は魔物の死体を切り開き、素早く体内の胆石を抜き取る。

残念ながら他は素材にならないので死体は放っておく。


死体を放置するのは衛生上問題がありそうに思えるが、他のビッグワームが血の匂いに寄って来ので、直ぐに奴らの胃袋に消える事だろう。


「よし!狩りまくるぞ!」


依頼書で求められている胆石は3つ。

そのため3匹狩ればオッケーなのだが、まあレベル上げがてら狩りまくるとしよう。

この辺りには腐るほどいるしな。


余剰分は他の胆石採集クエストに回せばいいので、冒険者ランク上げのポイント稼ぎも出来て一石二鳥だ。


――この日、俺は思う様ビッグワームを狩りまくって真の冒険者初日を満喫した。


冒険者サイコー!

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