第3話 SSランクパーティー

「すまん。少し遅れた」


カイガンの街の外れには、誰の物とも分からない屋敷がある。

その屋敷の一室――広い会議室の様な場所に、髭を生やした壮年の大男が入って来る。


それはアマルが戦士に襲われた際に、彼を救った男だった。


「神殿に顔を出しに行っただけなのに、ずいぶん時間がかかったじゃないか?」


室内には大きなテーブルが置かれ、6人の人間が席についていた。

彼に疑問を投げかけたのは、金髪の細身の男性だ。

その耳は笹状に先がとんがっており、彼がエルフである事を示していた。


「揉め事があってな……そこで面白い男を見つけた」


大男はそのまま空いている席に着く。


「タイタン。貴方が他人に興味を持つなんて珍しいわね?」


右目に眼帯をした赤毛の女性が男――タイタンの言葉に興味深げに目を細めた。

彼女の頭部には獣の様な耳が生えており、その事から獣人と呼ばれる亜人種である事が分かる。


「昔の俺に似ていたのだ」


「あんたに似てるって事は、愚直な努力馬鹿なのか?」


「ああ、そうだ」


ローブを身に纏った男が、揶揄う様に彼に声をかける。

だがタイタンはそれに気分を害した様子はなく、淡々と答えた。


「自分の道に迷っている様だったのでな。少しアドバイスしておいた」


「アドバイス?まさかとは思うが、神の試練について話してはいないだろうな?」


「……」


金髪碧眼の美男子の言葉に、タイタンは黙り込む。

それは無言の肯定を意味していた。


「それは不味いべ!神の試練は基本口外禁止だべ!」


そのやり取りに、小柄な少女が声を荒げた。

一見子供の様に見えるが、彼女はとうに成人している。

幼く見えるのは、ドーワフという種族の特性だ。


「やれやれ、神殿を敵に回す様な行動は控えて貰えたいものだ。バレたら騎士団での俺の立場に響いてしまう」


「安心しろ、リウガ。名は名乗っていない。それにレベル条件や、クラスとは別の努力が必要となるといった具体的な話もな」


リウガ――それは王国最強の魔法剣士と同じ名である。

だがそれはただの同名ではなく、この男は正にその本人だった。


「それと――」


髭の大男が自分の顔の髭をつまんだかと思うと、それをそのままベリッと剥がしてしまう。

どうやらそれは付け髭だった様だ。


「変装もしていたからな」


「なんか髭を生やしていると思ったら、変装用の付け髭だったのか。けどそれでバレないってのは流石に……」


髭を付けただけで劇的に印象を変えるには、筋肉質な大柄の体つきと、その厳つい顔は特徴的すぎた。

その程度で見た目を誤魔化すのは無理があると、エルフの青年は目で訴えかける。


「印象が違えば、何とでもいい訳は出来るだろう」


「やれやれ」


「まったく……久しぶりだってのに、相変わらずだなお前は」


大男の力押しの理屈に、誰ともなく笑いが漏れる。


「ま……転職は大々的にやってる癖に、サブクラスの情報公開はダメってのがそもそも意味不明なのよね」


ローブを身に着けた魔導士然とした女性――彼女は神殿の判断は意味不明だと口にする。

その口ぶりからは、神殿に対しあまりいい感情を抱いていない事が感じ取れた。


「まあ神殿には神殿の考えがあるんだろう。そこは俺達が口を挟む事じゃないさ」


サブクラスが判明したのはここ百年と、世界の歴史から考えると比較的最近の事だ。

当然神殿も、長らくその事実を把握していなかった。


――神のギフト関連の情報を、神に仕える立ち位置の神殿が知らなかったという事実は重い。


そして百年前、サブクラスが発見された際に神殿の出した答えは――情報封鎖だった。

それを続けて実績を積み続ければ、万一広がった際、遥か昔から情報封鎖していたと見せかける事が出来ると考えたからだ。


神殿は長い間神の齎すギフトに関する情報を知らなかったという事実よりも、情報を独占封鎖していたという汚名を選んだという訳だ。


だが彼らはその事実を知らない。

神殿上層部のみが持つ記録にあるそれは、外部に一切公開されていないのだから当然だった。


「さて……横道はほどほどにして、本題に入るとしよう」


リウガが軽く手を叩くと、その場の全員が口を閉じ彼に注目する。


「内容は事前に通達した通りだ。再結成した俺達、栄光の剣えいこうのつるぎで東の遠洋に出没した海竜を叩く」


栄光の剣。

それはかつてSSランクだった冒険者パーティーの名だ。

だがそのパーティーは既に3年も前に解散している。


にも拘らず彼らは再び集まり、海竜討伐に乗り出そうとしていた。


「海竜相手に、久しぶりに集まった面子でぶっつけ本番。無茶言ってくれるねぇ」


「確かに、海竜は竜種の中でも厄介な相手だ」


竜種。


魔物の中で上位に存在するそれは、強大な力を誇っていた。

並の冒険者程度では手も足も出ないだろう。

特に海竜との戦いは相手に猛烈な地の利アドバンテージがある為、生半可な戦力では戦いにすらならない。


そのため、本来なら海竜退治は騎士団から大部隊を派遣するのが常道だ。

だがそれでは多くの被害が出てしまう。

それを懸念したリウガが上に申請し、かつてのメンバーを招集、一時的な再結成の流れとなっていた。


彼らはこの場に居る7人――栄光の剣の面子だけで海竜を討伐するつもりだ。


「だが、俺達は栄光の剣だ。僅かなブランクは戦いながら埋めればいい。違うか?」


「ふっ。違いない」


リウガの言葉に、その場にいた者達全てが不敵に笑う。

栄光の剣のメンバーは、戦いの中に身を置いて来た猛者達だ。

それがどんな相手で、どんな状況であろうとも、怯む様な事はない。


「一応作戦っぽい物は船の中で説明する。さっさと終わらせたいから、早速向かうとしよう」


まるで野暮用でも済まそうと言わんばかりの口調でそう言うと、リウガは席を立ち部屋からさっさと出て行く。

それに続く様に、他のメンバーもその場を後にする。


最期にタイタンがゆっくりと立ち上がり――


「茨の道だが……果たしてあの男は、俺と同じ場所まで昇って来るだろうか」


そう独り言ちてから部屋を出ていく。

タイタンがアマルを気にするのは、彼も又変更できない自身のユニーククラスに悩まされた人間の一人だったからだ。


だが彼は知らない。

アマルのユニーククラスこそ、神に愛されたクラスである事を。

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