第十三話 くだらない

 ワタシの名前は【青山あおやま 真守まもり】。今年で、19歳。勉強は、必要があればするだけで、生きていくうえで絶対に必要になるものだとは思わない。趣味は、一応読書。運動も、別に好きじゃない。周りの人からはよく「抜けている」って言われちゃうけど、少し不満。ただ、一つのことに集中しすぎて、周りが見えないだけなのに。

 そして、そのただ一つのことっていうのは幼馴染の【黒川くろかわ まこと】。ワタシは、信って呼んでる。


「また、ボロボロだね…」


 …そう、またボロボロになってる。


 そして、今度のはいつもより酷い。返事をすることさえできないみたい。


「黒川さん…、どうしてこんなになるまで戦うんでしょう?」


 今、そんな疑問を漏らしたのは、赤根あかね君だ。


「どうしてって…、とてもだよ」

「くだらない?それって、どんなことなんです?」


 ワタシは、と思いながらも教えてあげる。


「両親を亜人に殺されたんだ」

「なるほど、それで復讐に燃えている。というわけですね?」

「そうみたい」

「うーん、それは確かにですね」

「そうでしょ?」

「ええ、実際に今、目の前で殺されそうならわかります。でしょうから。目の前で、殺されたのを目撃した瞬間も、わかります。それ以降なら、


 赤根君は、ため息をつく。


「まして、もうのために…、どうしてがあるんです…?」

「心の底から同意見だよ…」


 そのやり取りを聞いていた、黄瀬きのせさんが声を出す。


「お前ら…、何を言ってるんだ……?」


 本当に理解が出来ない。といった表情でこちらを見ている。確かに、信のやっていることは理解できないと思う。もっとも、ワタシも、信が死んじゃったりしたら…、いや、考えるのはよそう。


「くだらない…?本気でそう言っているのか?」


 どうやら、信に向けられた言葉ではないみたい。そして、その言葉は…、ワタシと赤根君の二人に向けられているようだった。


「命が…、失われた命がくだらないなんて…、そんなことがあるわけがないだろう…!」


 続けて、縁葉みどりばさんが声を出す。


「そうだ、そもそもD.M.Sは、市民を、人の命を守るのが仕事。そして、使命だ。そこに所属した以上…、希望した以上…、こころざしはみな同じはずだろう」


 ワタシと赤根君は、互いに顔を見合わせる。赤根君は、心底理解が出来ないといった顔だった。おそらく、ワタシも同じ表情をしてると思う。


 赤根君が、反論する。


…?そんなわけがないでしょう。そもそも、僕は他人の命なんてどうでもいいんですよ。まあ、組織に属している以上は、守りますけどね。それでも、わけじゃありません」

「何を…‼」


 続けて、ワタシも反論する。


「その通りですよ。ワタシだって、信が入るって言うから、ワタシものことなんです。信がやりたいって言うから、手伝ってるだけです」

「何を…、何を言ってるんだ……⁇」


 赤根君が、切り出す。


「それよりも、早く救援を呼んだほうがいいんじゃあないんですか?ほら、彼…、もうボロボロじゃあないですか。『D.M.Sは命を守るのが仕事』…、なんですよね?」

「…、そうだな」


 黄瀬さんは、デバイスで救援を要請する。


「……、今は人類の味方のようだからいいが…、敵にでもなってみろ。その時は、


 赤根君が、笑いながら答える。


「やだなあ、そんな怖い顔しないでくださいよ。僕は、『人類の味方』ですよ~?滅多めったなこと言わないでくださいよ。仲良くしましょう」

「そうできるよう、望んでおくよ。とにかく、今のは聞かなかったことにしておく。


 しばらくして、救援が到着し、信はD.M.Sの病院へと運ばれていく。


 元気になるといいね、信‼





「ここは…?」

「よかった…‼気が付いたんだね」

真守まもりか…。そうか、俺はまた…」

「そんなこといいじゃない。助かったんだから。また、次があるよ」

「ああ…」


 まことが目を覚ました…!やった!よかった!いや、まあ欲を言えば、もっと眠っててもよかったんだけど、とにかくよかった‼


「他のみんなは…?」

「みんなは、機動きどうさんに呼ばれて、彼の研究室みたいだよ」

「そうか…、俺だけか」

「ほら!そんな暗い顔しないの‼」

「そう言われてもだな…」

「とにかく、今はケガを治すことだけを考えて」

「む、むぅ」


 信はいっつもこんな調子だ。本当に、後先考えずに行動しているというような感じだ。昔から、厄介ごとに首を突っ込みたがるし…。


 でも、そんな信がいいんだけどね~‼


 はあ~、復讐に燃える信…、どうしてそんなにかっこいいの…?ボロボロになって、ベッドの上に居る信…、どうしてそんなにかっこいいの…⁇一人じゃあ、なあんにも出来ない信…、どうしてこんなにもいとおしいの~~⁉⁈


「ふむ…」


 『ふむ…』⁇何そのため息⁇そうかあ‼動けないのがもどかしいんだね…。でも安心して…、もう


「ちわ~、回診かいしんで~す」


 ほら…、時間通り♡


 これで、元気になるね‼

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