第十四話 だいすき

「どうして、キミみたいな役立たずを二回も治さないといけないのかね」

「全くだ、どうして、二度も亜人の助けを借りなきゃいけないんだ」

「まあまあ、仲良くやろうよ」


 まこととキュアーは、そんなやり取りを交わす。


「とにかくだ、早いところ、ボクも帰りたいんだよね」


 そう言い、キュアーは、例のごとく信に液体…、多分お湯をかける。


「それじゃあね」

「二度と来るな」

「それはボクの決めるところではないよ」


 キュアーは退出していった。


「元気になってよかったね」

「……、まあな」

「元気な信が一番良いよ」

「まあ、元気がなければ何もできないだろうからな。俺としても、元気なほうがありがたい」


 本当は、元気な信が一番…というわけではないんだけど…。信が元気なほうが良いって言うなら、ワタシも信が元気でうれしい‼


「ぐっ……⁉」

「大丈夫⁉」


 信は、体調がすぐれないみたい。でもしょうがないよね。信が弱いからいけないんだよ。


 安心して、信。ワタシが、信のことをちゃあんと面倒見てあげるから…♡


「……傷は治っても、体力が万全ばんぜんじゃあないんじゃない?」

「そうかもな…」

「少し休んだほうがいいよ。また、いつ出動になるかわからないんだし」

「そうさせてもらうよ」


 信は、横になり、目を閉じる。


 ——おやすみ、信。





 10分くらい経ったかな。信は、寝息をたてて眠ってる。


「こうしてると、まるで子供みたいだね」


 信の寝顔は、あの頃と何にも変わらない。両親が居なくなる前のあの頃。まだ、子供だったあの頃。記憶に古い、どの寝顔と比べても変わらない。もっとも、まだ子供なのかもしれないけどね。


 どうしてだろう…、いつからだろう…。いつの間にか、あなたを目で追うようになってた。いつの間にか、あなたのことを考えるようになってた。そして、いつの間にか——


 ——あなたを想うようになってた。


 今じゃあ、朝起きたときも、着替えているときも、ごはんの時も、それこそ、眠っている時だって、あなたのことを考えていない瞬間ときはない。


 信は気づいていないだろうけど、ワタシが裏で手を回してあなたのサポートをしてるんだよ。手を回すって言っても、弱みを握るとかそんなレベルだけど。


 例えば、どうして信のところに、キュアーが、どうして、信が…。それは全部ワタシの仕業しわざ。他にもいろいろやってるんだよ?


 その中で、一番大きいのは、あの【機動きどう ただし】のかな。本当に、運が良かったんだと思う。そのおかげで、信に、ケガをしても、。神様って優しいね‼


 ワタシは、アナタのためなら何でもしてあげる。あなたの望むものを手に入れることだってできるし、あなたの望む方向に物事を動かすことだってできる。あなたが望んでいなくても、何でもしてあげる。あなたのためになることなら、何だってしてあげる。頼まれていなくてもするし、一生そのことに気づかれなくてもする。


 本当に、自分でもびっくりしちゃうくらい、あなたのことが…、まことのことが好きなんだなあ…。


「そんな風に、寝ててもいいの?」


 ワタシは、手を伸ばして信の頬に触れる。


 信が起きる気配はない。


「もしかしたら、この部屋に敵が隠れてるかもしれないのに…」


 まあ、そんなものが居ないのはわかってるけど。


 本当に、無防備。今までのことが夢なんじゃあないかって思うくらい、無防備に寝息を立てている。


 ——いつまでもこんな時間が続けばいいのに…。





 気づけば、どれくらい経っただろう…。ワタシは、いつの間にか眠っていたみたい。顔を上げて信のほうへ目線をやる。


「よっぽど、疲れてたんだね」


 信は、変わらず寝息を立てている。


「もう、こんな時間か…」


 ひょいと、目線を窓のほうへやる。外はもう、空がまぶたを閉じる直前といった感じだ。地平線の向こうへと、太陽は隠れて、それを追いかけるように、暗闇がやってくる。


 信のほうへと視線を戻す。


 信の顔には、夜が落ちている。さっきまで、はっきりと見えていた顔が見えない。


 ——でも、大丈夫。


 私の頭の中には、信の顔どころか、全身がぜーんぶ入ってるもんね♡見えなくても、ちゃあんと見えてるんだよ。ほら、今だってはっきり見える。


 ワタシの大好きな信の顔が。


 さて、ワタシもそろそろ休まないとな…。今日は、ずっと信のそばに居るからね…。このまま、あなたのそばで…。


 でも、あと少し。眠る前にあと少し…、あなたのことを見ていたい。あなたのことを考えていたい。あなたのことを想っていたい。


 今が夜で本当に良かった。多分、今の私の顔…、とんでもないことになってるから。


 上がった口角が下がらない。ほほが熱くなったまま、ちっとも冷めない。おなかの下のほうも熱くなってくる。ワタシは、我慢できずに手を下へと這わせる。思わず声が出る。咄嗟とっさに口を押えたが、自分をなぐさめるこの手を止めることはできない。


 まこと信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信信まことまことまことまことまことまことまことまことまことまことまことまことマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコトマコト信まことマコトマコトまこと信…


 ワタシの内側から何かがあふれてくる。


 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好ききすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき…


 信


 好き


 まこと


 だいすき


 ワタシの中で溢れていた何かが弾ける。


 だーーーーーいすき♡


 幸せな気分に包まれて、ワタシの意識は夢の中へと落ちていく。

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