第29話

 一学期に二度模試を受けた。

 アタシは今までと変わらないA判定。

 カレはC判定だった。

 進学組に来られたレベルのカレの学力でもまだ勉強不足なのは誰の目にも明らかだったしアタシもそう思ってた。

 分かっていないのはカレだけ、そんな感じだ。

「あのなぁ。一年の時から受験の準備してるアタシとずっと陸上で頑張って去年は休学して復学したアンタとで差があるのは当然だって分かるだろ?」

「それは分ってる。君は成績優秀だし……でも他の子たちとも差が……」

「あほか!」

 アタシはカレの尻を蹴る。

「痛っ」

 そんな強く蹴ってないし、引き締まった筋肉を蹴ったアタシの方が痛いくらいだ。

「あいつらとアタシ達は受ける大学が違うんだから判定だって変わってくんの。それから、いい?」

 両手でカレの頬を挟もうとして伸ばしかけて、手が止まる。

「模試はあくまでも模試。判定結果は今自分がどの位置にいるかの確認なんだからいちいち落ち込まない」

「そう……だね」

 と言いながらも納得できてなさそうなカレの顔は暗い。

 カレは気付いているのだと思う。

 アタシがカレに触れられなくなったことに。

 そしてカレに触れられることもできなくなっていることに。

 自分から触れようとしても身体が強張ったり、カレが伸ばした手からも逃げてしまう。

 あの夜からアタシの根幹がカレを男だと認識して避けているのだ。

 どうにかしたいと考えていてもどうにかする方法が考え付かない。

「大丈夫。アンタは頭が良いんだから直に追いつくって。アタシが保証してやるって」

「君のお墨付きなら安心。僕ももっと頑張るよ」

 やっと笑ったカレの顔がどこか寂しそうに感じるのはきっと間違いじゃない。

 そして夏休みの模試の二回のうち一回目の模試でC判定。アタシの保証通りに二回目の模試でB判定になった。

 夏休みをほぼ勉強とアルバイトで費やしたカレの秋の最初の模試はA判定だった。

「やった! これで君と同じ大学に行ける!!」

 ついに努力が実を結んでカレは大喜びだったけど、周りは学力の上がり方に若干引き気味。

 次の模試でもカレはA判定を出すだろうから実力は本物だと皆にも分かるだろう。

 でもその前に学校行事が待ってる。文化祭だ。

 文化祭は、一度はクラスの賛成多数で男女逆転喫茶に決まりかけた。所謂男装と女装の喫茶店。

 でもそれはたった一人の反対でひっくり返った。

 そうアタシだ。

 一人反対するクラス委員のアタシは理由を求められたので簡潔に答えた。

「検便したくない」

 義務では無いけれど食べ物を扱う以上、少なくとも保健所からは求められる。

 文化祭の為に、なんてアタシはごめんだ。

 と言うことで男女逆転喫茶は中止になり、よくあるお化け屋敷になった。

 お客さんに触れないように調整して白い腕が何本も飛び出る壁とか、人が通ると床のアクリル板の下に人骨モデルがいたりと色々工夫した。

 アクリル板の下は実際に人が入って叫ぶとかアクリル板を叩くとか意見もあったけど、どう考えてもスカートの中を覗くから却下。

 それなりと学校行事を楽しみながら迎えた次の模試でカレは、またA判定を取り、周りに実力の程を認めさせた。

 しかも今回はアタシの点数を上回るというおまけ付きで。

 確実に実力を付けて前に進むカレの背を見ながらアタシの中には何時か置いて行かれる。必要とされなくなるという漠然とした不安が生まれていた………

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