第28話
「……それで君は何を聞きたいの」
アタシの返事に納得したのかカレは質問を聞く気になったようだ。
「週にどれくらいすんの? あーっと言い方が悪かった。週に何回しないといけないの?」
「どうして、そんなこと」
「覚悟がいるから」
そう、覚悟だ。
こうなることは決まっていたんだなんて思ってた癖にアタシはアタシ自身とカレに対する覚悟が足りなかった。
だからカレが男としては当然な行為を予想もしないで、分かった瞬間にパニックになってカレを怒鳴るような羽目に陥った。
「ホルモン療法だっけか。それが始まるまでアンタはしなきゃなんないんだろう。アタシの生理と一緒で周期が分かってれば多分何とかなる……と言うかなるように努力するから」
「僕を追い出さないの?」
やっとカレが顔を上げた。
この短い間にどれだけ泣いたのか充血して目が真っ赤だ。
「追い出すも何もここはもうアタシ達の家なんだ」
怒りに振り切れてたはずのアタシなのにこの部屋に入って最初に言ったのは『アタシ達の家で』だった。
「だからアンタが出て行きたくなったらそうしてもいい」
きっとアタシは引き止めるだろうけど。
「回数なんだけど、一週間に何回って言うよりも四日から五日に一回くらい」
月六回くらいか。
アタシは月に一回で七日程度。痛みを伴って否応なしに始まる。
カレは月に六回。嫌なのにしなきゃいけなくて気持ち良さがある。
一体どっちの苦痛が大きいんだろう。
ともかく。
「答えてくれてありがと。えっと、していいから今迄みたいにしてくれると助かる。あと、ほんと怒鳴ってごめん」
今迄みたいにしてくれればアタシは気付かない。現に今日まで気付かなかったんだし。
「うん、僕ももっと気を付けるから」
と言っとアタシを見ながら言っていたカレが急に右手で口元を押さえ右に視線を落とした。
「あの…言い辛いんだけど……口元汚れてるよ」
あっ、ゲロ吐いて拭いてない。
「それと、そのなんでか知らないけどショーツ濡れて透けてる」
カレの言葉に恐る恐る下を見たアタシに頭にさっきとは違う形で血が昇る。
おしっこを漏らした上に中途半端にかけたシャワーのせいで割れ目こそナプキンで見えないものの透け毛…下の毛が。
「ああああ」
慌てふためいたアタシは、とっさにパジャマの上着を引っ張って股間を覆い隠す。
「ああ、そんなことしたら太腿の血がパジャマに付いちゃうよ」
膝くらいまで経血が垂れてる。そりゃああれだけ色々な水分を含んだら吸収力も何もない。
「お腹痛くない? 僕の手を貸そうか」
興奮状態だったから痛みは忘れてたけど、そもそもこんな状態の下腹部に触らせられる訳がない。
「だ、大丈夫。アタシはシャワー浴びたら寝るから、アンタももう寝て。もう騒がないから、お休み」
顔を真っ赤にしたアタシは、ゆっくりゆっくり後ろに下がってカレの部屋を出てドアを閉め、そのままペタンと床に座り込む。
湿ったショーツとナプキンが冷たい。
何やってんだろうアタシ。
トイレに入ってからカレの部屋を出るまでを思い返して吹き出してしまった。
「アタシ、頭おかしいじゃん」
もう騒がないとカレに言ったのに、あまりにも常軌を逸した行動を思い出してアタシはゲラゲラとひとしきり笑い続けたのだった。
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