第27話

 泣き出しそうなカレが過去の自分と重なって哀れにも思えてアタシの怒りが少しずつ収まっていくのが分かる。

 それでもアタシの中に一つだけ残った疑問。カレは射精してる。ってことは……

「そうだよ…気持ちいいよ!」

 溢れた涙をぬぐいもせず、カレにしては感情的な声を上げた。

「君が想像している通りだよ。すれば気持ちいいよ。だって気持ちよくなきゃ出ないんだもの。嫌なのにしなきゃいけなくて、嫌なのに気持ちいいんだよ。君にはこんな気持ちは分からないよ!」

 カレは勘違いしてる。

 アタシは分かるんだ。嫌なのに気持ちいいってやつが。

 何の知識もなく無防備に受け入れてしまったから……良くないことだと気付いた時には、嫌だと思った時にはもう遅かった。

 だからカレの言うことは全部じゃなくてもそこだけは分かるんだ。

「……ホルモン療法を始めれば収まるから今は辛抱しなさいって。秋になれば、十八になればって隠してきたのに……」

 ぎゅっと握った拳で目元を押さえたカレの嗚咽だけが部屋の中に響く。

「一つだけ聞いていいか?」

 嗚咽したままカレはかぶりを振る。

「その……ごめん。アタシが悪かった。アンタの気持ちも考えないで喚き散らして。言い訳にしか聞こえないだろうけど生理でイラついてるし……アタシにとってあの臭いはトラウマだし、アンタはそう言うのに興味無いって勝手に思ってたから裏切られたような気持になって……」

 ああ、情けない。しどろもどろに言い訳する自分が。

「君は興味ないの?」

「無い」

 興味ないだけじゃなくて、むしろ嫌悪の方が強い。

「なら僕の質問に答えてくれたら君の質問に答えてもいい」

「答えられる内容ならね」

 アタシにだって言いたくないことはある。

「君は……自分で………」

 言ってて恥ずかしくなったのか顔を隠したままのカレの耳が赤い。

「君はオナ…オナニーはしないの?」

「しない。したこともない」

「でも、女の子もみんなしてるって……」

「どこ情報か知らないけど、みんなの範囲が曖昧過ぎるだろ、それ。少なくともアタシはしないし、これからもしない。過去のせいなんだろうけどアタシは性欲とかって薄いんだと思う」

 されたことはあっても自分でしたことは無い。興味を持つ前に知っていたからだと思う。そしてそれは嫌悪と罪悪感にまみれてる。

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