第20話

 カレの復学はクラスメートだけでなく陸上部の先輩後輩たちからも大喜びで迎え入れられた。

 例え陸上の世界に戻れなくてもあの絶望的な状況から復学してくれたことがみんな嬉しいようで囲まれるカレの笑顔からも前に見たような不自然さも消えていた。

 むしろ以前より人気があるんじゃないか。

 陸上と言うストイックな世界から解き放たれて元々優し気な顔つきがさらに穏やかになったとか言われてるし。

 実際のところは男でいなければならないと言う枷が外れて精神的に楽になったからだとアタシは思う。

 ただ、カレはまだカミングアウトしていない。

「在校中のカミングアウトはお勧めしないかな。経験上、好意的に受け入れられるとは限らないから」

 店長に可愛い笑顔でそう言われてもカレは納得できなくて、しばらく二人っきりで話し合って最終的に女性デビューは高校卒業後になった。

 カレは他にも色々と店長に相談しているけどアタシに細かい話はあんまりしない。

 まあ、そんなんでカレにとってはクラスの女の子たちは同性ってことになったからなのか何かと優しい。

 だから、と言うか当たり前に構内の女の子たちにモテるようになって卒業までの約一年半でアタシが知ってるだけでも四~五人から告白されていたはず。待ち伏せしてる他校生を含めたら二桁行くんじゃないだろうか。

 しかもバイト先でもカレは好評で密やかに女のファンを増やしている。

「嬉しくない」

 お客が増えている一方で店長はご機嫌斜めだ。

 カレ目当てのお客が増えていることに厨房の踏み台の上に立つ店長は腕を組んで頬を膨らませている。

「私は私の料理を楽しんでおいしく食べて欲しいから彼目当てで来られるとジェラシーメラメラよ」

 その様子はまるで小さな子供が駄々をこねてるみたいで笑える。

 そんな店長の気持ちを知ってか知らずか帰り道のカレは楽しそうに鼻歌を歌っている。

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