第18話
ずっと一人で暮らしてきたアタシは今更ながら人と一緒に暮らすってのは思ったよりも大変なんだと思い知った。
最初に
着られるならアタシの服を使い回せばいいやなんて考えていたら店長に男女で袷が違うと教えられた。男に近づかないからそんなの気にしたことも無かった。
カレにアタシの服を着せて学校へ行かせなくてほんっと良かった。
学校の方はカレの親が勝手に退学届を出していたけど、学校側で有名人であるカレ本人の意思確認ができないと受理しないと言う方針だったことで復学に問題はなさそうだ。
学費は入学時に三年分を一括で支払っているし退学しても返還しないと入学時に書類を交わしているからこれも問題無し。
当座の生活費については、アタシの貯金から貸すつもりが
「友達同士の貸し借りは絶対ダメ。それをやったら友達じゃなくなる」
と言うお叱りを受け、店長が貸してくれることになった。
ついでだからとカレを雇ってくれた。
「借金返済のために奴隷のようにこき使うに決まってるじゃない💕」
二〇センチくらい下からとても三十路後半には見えない童顔の店長がニンマリ満面の笑顔を見せる。
けどそんなことをしないのは分っているからアタシも笑ってスルー。
それで少しは落ち着くかと言えば、衣の次は食。
学校は学食があるしバイトがある日は賄が出る。
それ以外の日が問題だった。
当然のように陸上に時間を費やしたカレは料理ができない。
かく言うアタシは一人暮らしが長いから一応料理はできる。あくまでもできるだけ。必要栄養素を取り込めばいいという考え方のアタシの料理は不味くはないけど美味しくもない。それだけの料理。
で、どうしたかと言えば初心者向けの料理本をそれぞれ購入して練習することにした。
今のところ4対6……3対7でカレが優勢。
その代わりと言うかカレは掃除と洗濯は苦手だった。洗濯なんて洗濯機に服と洗剤を放り込むだけなのに。謎だ。
そして最後の住。
古くから『衣食住足りて礼節を知る』というけどこれが一番問題だった。
風呂はまあいいんだ。アレが浸かった湯船に浸かることに抵抗が無かったと言えば嘘になる。でも、今のところはソレも含めてカレなんだから仕方がない。
切実な問題は、トイレの方。
部屋を出たところでカレとかちあって
「トイレ? お先にどうぞ」
「僕は大丈夫だから君が先で良いよ」
にっこり笑顔で言われても、はいそうですかと言う訳にもいかない。
「……アタシが入った後すぐに入られるの嫌なんだけど」
「僕だって嫌だよ」
それでどうしたかって言えば、その時はカレが近くの公園に行ってくれた。
トイレはどうしたってアタシの使う頻度が高い。そもそも女の方が男より膀胱は小さいんだから回数が増える。しかも尿道だって短いんだから我慢するのにも向いてない。
それに嫌でもアタシには生理が来るからトイレの占有時間が長い。
とりあえずはお互いに様子を見ながら使うようにして、どっちかが入った後は緊急時を除いて最低五分は入らないようにするように取り決めた。
あと、換気扇は二十四時間フル稼働。
それから一番大事な約束事を決めた。
何かあってお互いに腹を立てたり機嫌が悪かったらしたとしても
出かける時は『行ってきます』と『行ってらっしゃい』
帰って来た時は『ただいま』と『おかえりなさい』
もう一人じゃないから、二人で暮らすからその言葉を意味のあるものにするために。
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