第14話
神様なんていない。
少なくともアタシの願いを聞き入れてくれる神様は。
カレは陸上を、アイデンティティを、自分が男であるという支えを失った。
そんな人間がどうなるか。
答えは簡単だ。
壊れる。
角度の付いた背もたれに身を預けるカレの眼は開いているものの何も見ていない。
見覚えのある
備え付けの椅子に座って頬杖をついて何気ない風にアタシは言う。
「アタシってさー家庭内性暴力被害者ってヤツなんだよねー」
思い出すだけで吐き気がしてパニックを起こしそうになる。頬杖をつくことで体重をかけて体の震えや恐怖を隠しながら聞いているか分からないカレを見ずにアタシは話し続けた。
「始まったのは、お風呂。秘密の遊びって名前だった。
知識もないから罪悪感もない。小さい頃は何も知らないから言われた通りにする。
父親は喜ぶし褒めてもらえる。
分からないから色んなことをされたしさせられた。
おかしいと思ったのは高学年になった頃の同級生との会話。
「えー、もうお父さんとお風呂なんて入らないよ」
その夜に誘いに来た父親に風呂を断るといきなり引っぱたかれて、それからは秘密の遊びは強要される行為になった。
少しして、どうやって知ったのか父親としていることを皆にバラすと脅されて中学生の兄も父親と同じことをするようになった。
滑稽なことにお互いにあいつはお前にこんなことをしているなんて知らないだろうって口に出してバカにしあってるのは滑稽に見えた。
それでも最後の一線を越えなかったのはなんでか分からない。
他の行為も何度かは拒否った。
拒否って殴られて、抵抗して殴られる。
知ってるか? あいつら分かってるから腹を殴るんだよ。顔を殴ると後が残ってバレるから。
腹を殴られて吐いたって具合悪くなって吐いた、と父親や兄が言えばそれで終わり。
毎晩神様に祈った。今日はお父さんが来ませんように。今日はお兄ちゃんが来ませんように。どうか神様、助けて下さいって。
でも無駄だった。
母親に相談しようと思ったこともあったけど、どうしても言えなかった。
母親は父親を溺愛していたから何もしてくれないかも。そんな事実を知るのが怖ったんだと思う。
力も弱い。逃げ場も無い。人に頼るなんて考えつかないくらいアタシは子供だった。
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