第12話
仕事を押し付ける元担任がいなくなったことで放課後にすることが無くなってしまった。
推薦も無くなっでも学力には問題無いから学費を稼ぐのにバイトのシフトを増やしたいんだけど保護司でもある店長から
「学生の本分は勉強」
とダメ出しをくらって少ししか増やせなかった。
それで何をしているかと言えば、部活の無い日にお礼も兼ねてカレに勉強を教えている。
陸上にかかりっきりで少し成績が落ちてたとは本人の話。
でも、天はニ物を与えずって言葉があるけど嘘だな。
教えてみればカレは頭の回転が速くて飲み込みがいい。
あと本人が聞いたら怒るかもしれないけど、どっちかっていうと可愛い顔をしてる。いわゆる優男だ。
性格は温厚。おまけに短距離は高校の
神は何物与えてんだって話。
ただ、性別だけはカレの望むものはもらえなかった。
秘密を教えると話したカレの言葉は真実だったと話せば話すほど一緒にいればいるほど実感する。
男の皮を被った女だと。
アタシの感性に偏りがあることは分かってる。アタシ自身が歪んでいるから。
それでも、もしカレが演じているならそれはそれで大したもんだ。
「ふぅ。どうかな」
本当に成績が落ちた事実があったのかと思うくらいに授業より先の問いを解いたカレが息をついてノートをこちらに向ける。
「うん、正解」
方程式も問題ない。
「ふ~やったぁ」
多少は難問だったのかカレは伸びをして椅子の背に寄りかかる。
「……がんばるアンタにご褒美をあげよう」
机の中に入れておいた小瓶を取り出してラベルをカレに向けて置く。
薄いラメ入りのピンクの液体が光を反射してカレの頬を染める。
「マニキュア、塗ってみない?」
「……塗りたい……でもだめだぁ。指先なんて皆にバレちゃう」
残念そうに、そして少し悲しそうにカレは言う。
「なら、足の爪に塗るのはどうよ? 全部がダメなら小指だけとか」
「小指だけ……」
両腕を組んでカレは思案する。無意識に額の皺が濃くなっていくのが面白い。
「足の小指でお願いします」
長考の末、カレは頭を下げた。
「んじゃ足出して」
「急いで洗ってくる」
「いいよ。臭かったら後で蹴るから」
にやっと笑うアタシにカレが苦笑する。
机に座ったカレが上靴と靴下を脱いでアタシがずらした椅子に細くて締まった足を乗せた。
「臭くない?」
「くっさいに決まってんじゃん」
ふざけるアタシにカレは真剣な顔つきになって足を引っ込めようとする。
「ごめん、嘘。何も臭わないよ」
「本当に?」
疑うカレにちょっと悪いことをしたなっとアタシは反省する。
「本当に。どうしたらこんな綺麗でいられるか教えて欲しいくらい」
疑い深げな眼差しのカレ。
「なんなら舐めようか?」
「分かった! 信じるからやめて!」
舐める訳ないじゃん。
男嫌いで怖いって感情が無くなった訳じゃない。
今だって嫌いで怖い。街中だって極力避けてるくらいだ。
ただ、やっぱりカレだけはちょっと違うんだよ。
「どうかした?」
「なんでも…」
きちんと塗るならリムーバー使ったりコートもしないといけないんだけど、落ちてもいい前提だから適当。
それにもらった物の横流しだから気にしない。
「よーし、塗るぞぉ!」
アタシが気合を入れたら
「ペンキ塗りじゃないんだから。もっとこう優しくお願いします」
カレから突っ込みを食らった。
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