第10話

 今日の教室は朝からザワザワと騒がしい。

 昨日あんなことがあれば当たり前か。

 と言うよりもアタシのせいなんだろうな、きっと。

 席に着くまで誰もアタシだと分からなかったようだし。

 遅れて来た頬を張らせてシップの付いたカレはどうかと言えば、一瞬の間はあったものの

「おはよう」

 と普通に挨拶をよこした。

 そして担任は

「お前、なんだその頭は?!」

 教室に入って来るなりアタシを指さして怒鳴った。

「校則にとあるから地毛に戻したんだよ」

 優等生のはずのアタシの担任へのタメ口に教室のザワめきがより大きくなる。

「そんな地毛があるか!」

「地毛だよ。なんなら保護司に連絡して確認すれば?」

「今日の連絡事項は無い。お前ら、授業の準備して大人しくしてろよ」

 事実確認をするためか担任は、足早で教室の扉を叩きつけるように開いて教室を出て行く。

 昨日、家に帰ったアタシは長かった髪を肩で切り揃えた。

 それから黒く染めていたヘアカラーを落として地毛に戻した。

 アタシの髪はほとんど色が無い。子供の頃から母親に脱色されたり染めたりされているうちに白髪みたいになって一部が茶色な以外はもう戻らない。

 長い黒髪にしていたのは、当然のごとく受けが良いからだ。

 ついでに言うと今日は眼鏡も無い。やめた。


 で、当然のように呼び出しを受けてアタシは校長室で校長、教頭、担任を前にソファーに座っている。

「地毛と言うのは確認しました。しかし今まで黒かったのにそれは……」

「お言葉ですが、校則に無いピアスの追求を受けました。ですから校則通りにしただけなのに…こんな風に呼び出しを受けしまって私はどうしていいのか分かりません」

 とりあえず校長と教頭は敵か味方かはっきりしないので対応は丁寧に。

「それでは脅迫の話はと言うのは」

 アタシが脅迫したことになってんの?

「何も処分が無ければ被害届を出すと言っただけです。それが脅迫に当たるのですか? 顔を掴まれて無理やり立たされてクラスのみんなの前で胸まで揉まれたのに。

私に泣き寝入りしろと?」

「被害届? 胸?!」

 教頭が素っ頓狂な声を上げる。隣の校長は驚いて声も出せない。

 はっはーん。さては報告してないな。

「そうです。昨日、耳と唇にピアスをした他のクラスの男子がしたことをご存じありませんか? クラスメートの陸上部の男の子が私を助けようとして殴られていますけれど」

「だが、君は……」

「ええ。ですからパニックになって暴れてしまったようで相手に怪我を負わせたそうです。それは事実です」

 校長と教頭の視線が担任に集まると口を開いた担任はとんでもないことを口走った。

「まったくの出鱈目です。こいつは優等生の振りをして私のパソコンを使って生徒の個人情報を抜き取ったりするような奴なんですよ」

 どの嘘話をするのかと思ったら一番ヤバイ方に話を持って行ったか。まあ予想の範疇だけど。

「それは……おかしいですね」

首を傾げてアタシは続ける。

「私は先生から頼まれて内申書用の資料を作ったりと色々なお手伝いをしただけです。最初はお断りしました。けれど奨学金を盾にされては言うことを聞くしかありませんでした」

「お、お前は何を証拠にそんな出鱈目を!!」

「証拠はありますよ。ですが、先にこちらを」

 怒りで顔を赤くした担任を無視してアタシは胸ポケットから二枚の写真を机に置いた。

 アタシを盗撮した写真。一枚はローアングルでギリギリ下着は見えていない。もう一枚は体育の時間だろう。セーラーを脱ごうとしてキャミが見えている。

 幸いと言っていいのか、他の女の子の写真は無かった。

 セキュリティがあめぇんだよ。ってかそもそも盗撮相手に盗撮写真の入ったパソコン貸してんじゃねぇよ。

「先生のパソコンを持って来て下さいませんか。資料の証拠と他の写真もこの場でお見せしますから」

 使うはずだった……いや、もう別な意味で使ってるかもしれないけどな。

 アタシの反撃を受けた担任は愕然として言葉を失い、教頭が大慌てで校長室から飛び出していった。

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