　アタシは油断していたのかもしれない。

　あるいはカレが陸上部のエースと言う有名人であることを軽く考えていたのかも。

　どこから漏れたのか。

　どこの学校に――進学校のうち――でもいる素行の悪い連中がアタシの目の前にいる。

「お前、舌ピつけてんだって？」

　予鈴が鳴る少し前に他の席を煩わしそうにずらしながら、そいつらは真っ直ぐアタシの前に来た。

「なんのことでしょう。私には分かりかねます」

　いつものように口元を押さえてアタシは白を切る。

　予鈴が鳴れば担任が来る。そうすればこいつらも諦めるだろう。

　そう高を括っていたアタシが甘かった。

「いいから口開いて見せろつってんだよ！」

　口元を押さえている手ごと顔を掴まれて持ち上げられるように無理やり引っ張られて立たされた。

　男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。男に触られた。

「後ろから押さえろ。無理やり口開かせてやる」

　パニックを起こす脳内の極僅かに残る正気の部分が後ろから身体を、胸を掴まれて忘れたい記憶と感覚に悲鳴を上げる自分を認識する。

　こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。「乳し――」こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。「咥え――」こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。

「――ってんだよ！　離せっ！！」

　恐怖に塗り固められた世界で微かに聞こえた震え声。

　見えているのに見えていない視界がわずかにちらつく。

　全てがスローモーションの中でカレが殴られて机や椅子を巻き込んで倒れていく――瞬間、アタシの中で何かが音を立てて切れた。