Killing time another world time 3

another world 久音と残った祥一郎達


サチが久音と初めて会った時は、不謹慎にも何で綺麗な悪霊なんだと衝撃を受けた。

大概悪霊も物怪もおどろおどろしい形で気持ち悪い奴らしかいないと思っていた。

普通の人間よりそういったものに取り囲まれていることが多かったので、余計そう思った。

 

肩までなびく白い髪とその前髪から覗くルビーの様な赤い目。ショウには半透明で見えていた久音だが、サチには青白い肌まで全身はっきり姿が見えた。

美しさまで感じた。


「ショウ!やっと会えた!僕だよ!」満面の笑みで言った。

何のことか分からず、首を傾げた。

「また、こいつも違うのかよ。クソッ!みんな、同じ顔しやがって」


笑みは一転泣きそうな声で言って、何のことだろうと思ったら首を絞められた。

「お前も来い!」

直ぐに全力を使って外そうとしたが全く動かない。

「これ、ヤバい」今まで遭った中で唯一抵抗できない霊だった。


「何回行けば、お前に会えるんだ、ショウ」

『誰だよ、それ』

今世で久音の声を聞いたのはそれが最後で、視界が暗くなっていっても泣き出した久音の美しい赤い目をずっと見ていた。


次に目覚めると薄暗く、黒い地面が延々と続く久音の世界だった。

咄嗟に逃げようとしたが、全く動じず、側にあった壁に叩きつけられた。頭を強打して動けなくなると、片手で首を掴まれて壁に押し付け、もう一方の手にいつの間にか持っていた杭で鳩尾を刺され、そのまま壁に縫い止められた。

血がどんどん溢れ出し、痛みで唸ることもできずこのまま死ぬんだと覚悟した。死ぬ様な危機になると、どうせ転移するし、ちょっとの辛抱だ。左右を見ると同じ様に連れて来られた祥一郎達が杭を打たれてぶらさがっている。

此処は祥一郎達にとって地獄だ。この時ばかりは早い転移を願った。


そう思っていたが、出血と痛みはあるのにいつまで経っても死なないし、転移もしない。

久音に話しかけようとしても口からも血が溢れてきて話せないし、連れてきたのに全く関心を向けず近寄りもしない。


古川祥一郎が次々連れて来られて同じ様に杭で打たれて横に並べられていく。

彼は祥一郎を連れ帰るたびに疲労困憊している。

新しい祥一郎を杭で刺すと祥一郎達の前に血まみれのまま気を失うときもあった。

時々「ショウ、どこにいるんや」とうなされている。


今まで生きてきて初めて他の世界にいるはずの祥一郎に会う。わかっていたが皆同じ顔でお互いを見て目を見開く。


集められた祥一郎が20体を超えた頃、ようやく彼の探していた『ショウ』が現れた。


ショウは此処に居る僕達と何ら変わらない祥一郎だった。

これなら誰でもいいだろうと猛烈に腹が立った。


このショウと呼ばれる祥一郎は久音に土下座までして他の祥一郎達を磔から解放してくれた。こっそり力を使って身体の回復を試みたが何故か効かず流れ出す血もそのままに狭い檻に入れられた。


ショウは信じられないことに久音の求めに応じて簡単に身体を許した。

sexを初めて目の当たりにしたサチはショウが自分に置き換わっていく様な気がして呆然としていた。


ショウから身体の奥で燻る熱が伝わり、経験したことのない快感がサチを苦しめた。他の祥一郎達も同じ様で中には自慰を始める者までいた。それすらしたことのなかったサチは未知の感覚にどうしようも無く、耐えるしかなかった。


「僕が悪い」と言うショウに同情した。sexをしているショウは明らかに思考が錯綜しており異常だった。身体も心も久音に支配されようとしていた。


何が何だか分からず、「イク」快感に何度も気を失いかけた耐え忍ぶ時間が過ぎて、ようやく終わった時、我に帰るとサチの下着とズボンはべったり濡れていた。

初めて射精したのだ。それも何回も。小便も漏らしていた。


自分にそんな機能があるとは思ってなかったので嬉しいのといい年して(体感的には200歳くらい)お漏らしが恥ずかしかった。


血はいつの間にか止まっていた。此処にいれば死なないのは本当のようだ。

でも、此処から出られない。

他の祥一郎達は絶望しているらしかった。


サチはある事に気付いた。此処にはあの男以外の悪霊や妖怪の類も居なかった。

いかにも出そうな雰囲気なのに清浄だった。

そして身体の中に常に何かが流れ込んでくる。


もしかして、と自分の力を動かした。前よりはっきりと映像化され、明らかに増幅していた。血や濡れた下半身も、清浄をイメージして力を込めると綺麗になったのでホッとした。


ただ檻には全く作用しなかった。

サチは希望を持ってチャンスを待った。


ショウは久音の夢に取り込まれ、本体は地面の中に殆ど埋められていた。

久音は折角ショウを手に入れたのに何してるんだろう。彼らが見ている夢も追体験できるようになっていたが、なんてことはない内容だった。なのにショウも久音に簡単に取り込まれている。同じ祥一郎なのに弱過ぎる、と歯噛みした。



チャンスは物凄いものを一緒に運んできた。

大量の塩が、シャワーなんて優しいものじゃ無く、滝の様に降ってきた。


一瞬息ができなくて、塩が痛いのにも驚いた。

何故か檻の中限定で、他の祥一郎達も皆腰まで塩に浸かっていた。


それを境に空気が変わった。あの男の気配が薄くなった。

サチは力を込め檻の破壊を試みた。見ると檻は一瞬で錆びており、直ぐにバラバラになった。


塩で咳き込む祥一郎達を檻から出し、空間を探ると直ぐに久音の場所が分かった。


何か武器はないか?殴る棒とか?と考えたら、何故か手に持っている。次々出てくるので深く考えずにみんなに渡した。

「こっちだ!」サチが先導して全員で久音の元へ走った。何が起こったかわからないけどこの機会を逃さないように。


久音、ショウのほかにも異質な者も居たがショウと同じ位置だったので、コイツが塩撒きの犯人だとわかった。

今まで離れた人物の正確な位置や情報を感知できなかったのに此処にきて能力が上がっている。


「いた!」久音は僕達に背を向けて手を突き出して何か喚いている。全員で一斉に襲いかかった。祥一郎は一人一人は非力だから、僕は力を使って彼を全力で押さえ込んだ。

連れて来られる前とは違う弱い抵抗に近付くと、身体の真ん中に大きな穴が開いていて、力と身体を構成している幽体が抜けていっている。


久音が見ていた穴を覗くと、爆弾に取り囲まれた、派手な服装の女と彼女を抱え上げながら首まで埋まりかけてるショウがいた。


本音を言うと愛想を振り撒く夕凪をそのままにしてショウだけ助けたかったがシャベルやスコップ、縄などを無尽蔵に出せる彼女を放っては置けず、何人かで掘り起こして二人を引っ張り上げた。


「塩撒き爆弾女」と祥一郎達の間でこっそり命名された彼女夕凪は性格はアレだけど力は凄かった。


ショウが提案して二十人の精神と共にショウがいた世界に送る事になったが、あっさりやってのけた。

「その代わりあっちで祥一郎様達とデートさせてくださいね〜」とか言ってたけど、もういいや、早く帰れと追い返した。


このまま此処に残る事にしたのだが、久音をどうしようか考えて見ていると、あの赤い目から光が無くなっていく。


久音は今にも消えそうだった。よく見れば(見れるようになった)彼の魂にあちこち傷が入っていて、常人のより小さくなっている。今日の分だけではなく、おそらく違う世界に出入りするたびに魂を傷つけ、すり減らしていったのではないだろうか。


幽体なのに実体も持ち、強力な力をここで得て、なのにやってる事は、どこにいるかもわからない僕達の一人を探すため。自身を痛めつけ、精神もやられ、やっと探し出した愛する人を、永遠に失ってしまった。

彼の存在理由が無くなってしまって絶望するのは仕方ない。


でも僕はあの煌めく赤い目をもうちょっと見てみたい、そう思ってしまった。消すのは今の僕ならいつでもできる。


「ちょっと小さくなったらまだ生きれるよ」と提案したら乗ってきたので手伝ってやった。

彼にあまり力は残ってないが幽体の維持には問題なくなった。


白い髪を肩まで伸ばし、赤い目が再び僕を見る様になった。6歳児位の大きさになっていた。

「可愛い」思わず言った。僕にこんな趣味があったなんて、知らなかった。でも、可愛い。


大きさは変わっても、相変わらずサチへの当たりはきつかった。

ショウにこっぴどくフラれたし、大穴が空いて今まで持っていた力の大部分を失ったのは夕凪にバズーカで撃たれて塩をかけられたせいだ。夕凪に関しては怒っていいと思う。

そして、ショウに顔と声が全く一緒の別人が2人も居座るのだ。

1人は全く出て来なかったが。


サチはすぐやけを起こす久音に辛抱強く優しく接した。自分一人ではない事を知って欲しかった。

そばに自分を気にかけている存在が居ることを。


ようやくサチと普通に話す様になって距離が近くなると別の衝動がおこるようになった。


久音がショウを犯す場面がチラつく様になってきた。

何百年生きてきて、男にも女にも全く感じなかった性衝動を久音に覚えたのだ。

かと言って自分でどう解消すればいいか全くわからない。


我慢できなくなって正直に久音に言うと、当たり前だが馬鹿にされた。

仕方なくショウとの行為を同調して感じていたと白状すると、案の定固まっていた。切羽詰まっていた僕に渋々ながら自慰を教えてもらえた。

昔ショウにも教えてあげたらしい。なんでこんな事同じやつに教えなならんねんと文句言ってた。


でも自分では中々イけず、ショウとの行為を思い出して欲情した久音に手伝ってもらったら、その時は満足した。でも、またしたくなる。

「もっと手伝って!」こうしてなし崩しで久音とする事になった。


さすがに6歳児よりかは僕の方が性器が大きいので彼に入れる事になった。前は逆だったから不満そうだったけど、やっと上手く入ると自慰とは違う心地良さに虜になった。

久音もまんざらではなかった様で、色々な体位を教えてくれた。僕の行為で彼が快感を得てイくようになると、僕は取り憑かれたようにせっせと久音に新しい体位を試し、行為に耽溺していった。


もちろん彼が疲れたらその分力を送った。

しかし、その内久音には普段の生活でも力を送ることが必要になってきた。

その頃には夕凪のロープも外していたが力の放出は止まらない。


でも、傷ついた魂そのものは治せない。魂そのものが小さくなっていくのも止められない。


弱っていく久音に何もできない僕に、彼は何も責めなかった。

せめて有り余る力をありったけ注ぎ込んでみたが、彼はもう受け止める事もできずに漏れていくばかりだった。僕が何度か倒れてしまって、それも止められてしまった。


久音は代わりに自分が疲れるのにまだsexをねだる。一日の内大半は寝て過ごす様になってからもだ。


僕は何とも言えない気持ちのまま彼を抱いた。

「サチ、僕は消えたくない、サチとどこでもいいから一緒に居たい」

ショウのことを言わなくなり、最中にも僕のことを言うようになって涙を流す。

久音は祥一郎を集めていた頃の傲慢さは無くなり、普通の男になっていた。


僕も本心は彼といつまでも一緒に居たいと思っていたが、表面上は冷静に、生まれ変わりをする事を望んでいることを伝えた。


そのうち此処を出て、君を探しに行くから、頑張って探しやすいショウのいる世界に行く様何回も言った。


最後に彼がそう願ったかはわからない。


「サチ、こんな僕を愛してくれて、見捨てないでくれて、ありがとう。みんなに、ショウにごめんて言っといてな」


僕への最後の言葉は僕を想像以上に打ちのめした。


単に身体の関係じゃなかったのか?

見捨てないって、久音が悪さしない様に見張りをやっていただけだ。

本当に彼を愛していたのか?

そもそも、愛ってなんだ?

彼が去ってからずっと考え続けた。

彼の寝ていたベッド代わりの台の上で久音に習った自慰をするようになっていた。でも終わると虚しくて、塞ぎ込む。

引きこもりだった一郎も、最近は出てきてサチを気にかけてくれるが、なかなか立ち直れなかった。


夕凪がやってきて、やらかす様になるまでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る