Killing time another world time 2

another world 久音と残った祥一郎達


久音がサチを心身ともに受け入れて、何年か経った。

その頃には夕凪のロープも外され、穴も塞がったが、力の衰えは止まらなかった。


サチは自分の力をできるだけ注ぎ込んだが、毎回倒れるまでするようになった彼を久音が止めた。


「もう、魂が小さくなっとるからこれ以上は力を受け付けられへんのや。無駄なことは止めとけや」

「責任を感じてる。僕のやり方が間違ってた」

「違うって、気にすんな。自分が無茶してたんはわかっててん」


もう創造はできず、サチが用意した寝巻きを着て、毛布をかけられてプルプルの弾力を活かして作ったベッドに常に寝ている状態になった。

疲れるのにサチはせがまれて、彼を時々そっと抱いていた。


「まだショウのこと忘れられない?」サチは時々尋ねていたが

「サチがおるから、もうええねん」

久音がはっきり答えるようになって、聞かなくなった。



そして、その日が来た。

半透明の身体になっていた久音の魂は小さくなり、二つに割れてしまった。

久音はずっと側に付いていたサチに最後に言った。

「サチ、こんな僕を愛してくれて、見捨てないでくれて、ありがとう。みんなに、ショウに、迷惑いっぱいかけて、ごめんて言っといてな」


サチと一郎、直前に来た夕凪に見守られて、久音は静かに消えていった。

普段あれだけ悪態をついていたのに、大泣きしながら帰った夕凪と部屋に篭ってしまった一郎。


「お疲れさん、久音」ぽつんとサチは言って、誰もいなくなったベッドをぼんやりと、しばらく見つめていた。




大丈夫そうに見えたサチは、段々魂が抜けた様に久音の寝ていたベッドに横になっていることが増えた。


「いい加減起きろよー!僕ご飯作んの下手くそなん知ってるだろう?」

「ここは食べなくても平気だろ?自分で頑張れ」

サチは相変わらず塞ぎ込んでごろごろしていた。

「今日夕凪来てんだよ。あいつに任すとロクなもん作らないんだよ」

「よく来るな、最近」

ため息をついて背を向けて動こうとはしなかった。


サチの言うとおり、別に食事をしなくてもいい場所だが、食べることの楽しさは忘れられず、一郎は試行錯誤して、ちっとも増えない少ない力を使い、サチほどではないが、簡単な食べ物なら創造できる様になってきた。


此処にいて、サチを持て余した一郎は夕凪を呼んで度々食事とサチの相手をしてもらっていた。


「あーまた失敗」

「何だよ、この茶色の塊?」

「…鳥の唐揚げ」

「鳥に謝れ!で、こっちは?」

「ステーキ」

「何の肉かわからねー、何で肉ばっかなんだよ」

「イメージし易いの」

「全然出来てねーじゃないか」

「…」

プルプルを使って作ったテーブルの前で、2人であーでもない、こーでもないと試行錯誤していると、ふらっとサチがやってきた。

「「サチさん」」

珍しく自主的に起きてきた彼に2人は飛びついた。


「何これ?」

テーブルの上に並べられた皿の上を見てサチは吹き出した。

料理とは呼ばれないだろう何かが10種類くらいある。

「味は普通なんだけど」

夕凪は唐揚げと言い張る茶色の塊をちぎって口に放り込んだ。

「見た目がちゃんとイメージできなくて」

「俺も人のこと言えんが、コイツのは酷すぎる」

一郎が最近唯一作れるようになったポテトフライをつまみながら祥を伺った。

最近、夕凪の名を言えば、何をやらかすか心配なのかサチが出てくるようになった。塩かけ爆弾女様々だ。


「2人とも力の無駄遣いだなあ」

サチは何でもない様に手のひらを上に開くと皿に乗ったカレーライスが出てきた。

一郎が喜んで受け取った。

「サチのカレー本格的で本当に美味いよな」

ナン、フライドチキン、サラダ、と次々出してくる。

「「おおー」」

「実際にあっちの世界の本物見ながらするといいんだよ。君ら食べることばかり考えるから、雑念が入って外見が崩れちゃうんだよ」

「食欲は最大のスパイスですよ」夕凪は言って二人から冷たい目で見られていた。

「ああ言えば、こうゆうな」一郎が茶化していた。

結局サチが創造した食事をみんなで食べた。

「料理の師匠と呼ばさせて下さい」夕凪は真剣に言った。

「はは、それより夕凪は力を抑えなきゃね」

テーブルで大きくなっていく鳥の形の唐揚げらしい塊を笑いながら見ていた。


空元気かもしれないが、サチの笑い声を久しぶりに聞いた夕凪は

「餌付け成功ね!」

と一郎に言ったが

「お前が餌付けされてるだろ」

と突っ込まれていた。


ショウの中に居るはじめろうさち、一郎が古川祥一郎達の中から残って独立している。


久音が無理矢理連れてきた祥一郎達は随分減った。

彼がしたことは許されることではないが、今となっては転移がなくなって一つの所に居られるし、他の祥一郎と会え、色々対策もできてよかったと概ね悪いことだけではなかったとの見解で一致している。


ただ、久音と長く深く関わってしまったサチはなかなか立ち直れなかった。


「やはり、弟子にして下さい、そして師匠と呼ばさせて下さい」

「いや、弟子とかいらないし、サチでいいです」

サチにバッサリ切られた夕凪はそんなことでは引き下がらなかった。

わざわざ狭間に引っ越してきた。


「だいたい、師匠のせいで私ずっと小さいままなんだから責任とって下さい!」

「ショウを助けられたからいいでしょ?小さいのは僕には何ともできないよ。責任取れって何を?」

「大人にできなければ、引き取って下さい」

「引き取るって、言い方」

「小ちゃい子好きでしょ?養子にどうです?」

「小ちゃいより性格重視です」


やり取りを横で聞いていた一郎は

「もう、お前らくっつけよ。何でもいいからご飯作って」とテーブルに突っ伏した。


夕凪がやいやい言ってきたり、変なものを創造してしまって後始末に追われた結果、サチは塞ぎ込むことが減った。


「あのね、いちいち呼ばれると疲れるんだけど、主に精神的に」

サチは嗜めようとするのだが、小さな美少女が大きな目に涙を溜めて彼を見上げて

「頑張ったのに」

とか言われると、こっちが悪いことをしようとしている気分になる。


「ショウがあんなに世話になっといて夕凪を避ける理由がわかる」

服を作ろうとして四角い布の端を縫い付けただけの物を大量に出して埋まり、サチに助け出された夕凪にため息を付いた。

師匠になりたくはなかったのに、指導しないと尻拭いをさせられるので結果としてそうなっている。



「師匠!見て!成功した!」

久しぶりに久音のベッドに寝転がっていたサチを夕凪が呼びにきた。

久音との思い出に浸っていたかったが行くまでうるさいので付いて行った。


外へ出るとテーブルが出ており、一郎が椅子に座ってビールを飲んでいた。


「上見て!」言われる前に視界に入ってきた。


一面に花火が上がっていた。様々な色の花火が煌めいて次々と開いて消えていく。

「凄い!上手じゃないか」


「やりましたよー此処までくるのに早幾年、一郎に火山の噴火や火柱と間違えられ」

「そんなに時間経ってない、さっき作り出したとこだし、噴火と火柱、そのものだったぞ」と一郎。


「ちゃんと消した?」サチが顔を顰めると夕凪は目を逸らした。

そして違うところを指差し

「まだ、あちらにございます」と小声で言った。


見ると遠くに火柱と噴煙が何ヶ所か見えた。

「あれ、先に消してきなさい!!」

「消すと花火も消えちゃうんです」集中が乱れたのか消えずにふわふわ浮かんでいる花火も現れた。


また仕事を増やしてーと言いながらもサチは夕凪を連れて始末しに行った。

「夏の気分をサチと一郎さんと味わいたくて」

三人はまだ浮いている花火を肴にビールを飲んで枝豆を摘んだ。一郎はこういうのは完璧に作れる。

ついに夕凪は色々力を使い過ぎたのか、テーブルに例によって大きく作りすぎた枝豆を、端から齧っていたが枕代わりに置いて寝てしまった。


「くだらない事に力使っちゃって」サチは枝豆を鞘ごと食べている。中身を出すのが面倒なので、そのまま食べれる様にした。

「そんなのに回す力が有り余ってるのが凄い」一郎はビールをもう一本作ってプルトップを開けた。

「僕なんか、これが精一杯」

「実用的で正確にできてるから良いじゃないか」

花火はまだ上がり続けている。夕凪の力の残滓だ。


「ホント、良くも悪くも目が離せない子だなあ。退屈しないけど」サチは微笑んで次はピーナツを手から出しながら食べてる。彼はとにかく創造が早くて正確だ。有り余っている力の無駄遣いは今でもしない。

元々の能力に、狭間にいる事で久音の為に力の調整をしていたら自然とそうなった。


「僕を巻き込まなければいい」一郎はやはり籠るのが好きなのに彼女に何度助けに呼ばれただろう。


「でも、サチは夕凪の事なんやかんやで女としても好きなんじゃね?」


サチはビールを吹き出した。


「そんな訳ないでしょう?精神年齢と外見がお子ちゃまの彼女だよ?」

吹き出したビールは慌てて消した。

「何言い出すんだよ、全く」顔を赤くした。

「男じゃなきゃ駄目か」

「別にそうじゃないけど、久音は別として、僕らのサイズじゃ成人の男女抱けないし。それ以前は恋愛も興味無かったし。一郎こそどうなんだ?」


「僕は昔から人と交流するのすら面倒くせえ」

「すぐ転移するし、祥一郎達はそれが普通だよね」

「ホントそれ!ショウがおかしいんだよ。あとサチ」

「僕は既に人外選んでたからなあ」

「夕凪もある意味人外だ」


「何ですって〜」

ガバッと夕凪が起き上がった。


「うわっ起きてたのかよ」」

夕凪は立ち上がった。

「え、いつから聞いてた?」彼らははパニックになった。

何をされるかわからない。

「落ち着け夕凪、酒の席でのことはなあ」一郎が釈明しかけたが遮られた。

「うるさいっどうせ精神年齢と外見お子ちゃまよっ」

『『一番聞かれちゃまずいヤツや』』

夕凪はビッグ枝豆を放り投げると更に一個増やし、一つずつ2人に投げつけた。

「僕関係ない!」一朗は盾を作ろうとしたが間に合わず顔に命中してひっくり返った。

「私の事人外って言ったでしょ〜!」

サチはギリギリ避けたがあっと気付いた。

『これ受けといた方が良かったんじゃね?』

次は何がくるか本当にわからん!

夕凪をとりなそうと、でも構えながら立ち上がったが、彼女はそれ以上何もせず、プイッと自分の家へ去ってしまった。


「あーあ、失言だったなあ」

サチは花火が消えた薄暗い空を見上げてため息をついた。


後味悪く解散して、またベッドへ戻ってきた。

灯りをつけたら。ベッドのそばに夕凪がいた。


「えっ?ここで仕返し?」飛び退いた。

「違います」

「じゃ、何?僕眠いんだけど。君の出した火柱と噴火消すのに結構力使ったから疲れた」

夕凪は下を向いて少しもじもじしていたが、キッと顔を上げて言った。

「好きです。抱いてください」


サチはあまりにストレートな言い方に眠気が飛んだ。


「そんな、僕の言った事気にしてるの?悪かったよ、本気じゃ、ちょっとはあるけど、小っちゃいのも可愛いと思う、よ?」


夕凪は服を脱ぎ出した。

「ちょちょちょ、何してんだ、早まるな」

祥は慌てて夕凪のそばに来ると急いで前開きのブラウスのボタンの開いたところを両手で掴んで詰めた。


「久音よりちょっと背が高いけど、今の私だったらサチを受け入れるのにちょうどいいかもしれません」


「僕はそんなんで彼を選んだわけでは、ちょっとはあるけど」「やっぱり」

「彼の大人の姿を知っていたからね?君もだけど、どう見ても今小学生の女の子に手を出すと、2人目だよ?確実にロリコン認定されるよ。他の連中に何言われるか!」


「もう30超えてます。私の事嫌いですか?」

ムッとして涙ぐんでいる。


「嫌いとか?そうだね、多分嫌いじゃないよ、夕凪、手間のかかる子だと思うけど、次何するか分かんないから面白いし」サチは掴んでいた服を緩めた。

「本当に?」


サチは考え込んだ。

「ああ、どちらかと言うと、究極の選択なら好きな方かな?」

「究極の選択って大袈裟だし失礼ですよ!しかも何で疑問形⁈」

「いや、分からないんだ、好きって言うのが。それが恋愛感情か」サチが困って言った。

「じゃあ、どうして久音と付き合ったの?私のせいで消滅しようとしてたの無理矢理留めて」

「え、なんで知ってる?久音の身体のことは君のせいだけじゃない、元から無茶な転移で弱ってたんだ。延命は彼の希望だったから手伝っただけだ。僕は彼の管理者になったから、どうとでもできた」

「久音に同情したの?サチさんだって酷い目にあってたでしょう?」


「そうだね、でも、憎めない。それどころか彼がいなくなっても、また出てくるんじゃないかって思ったりする。魂が消えても僕の事忘れないでほしい。いつも久音の顔が、そうだ、彼の赤い目が、浮かんでくるんだ。キラキラ光って宝石みたいで、とてもきれいだった。だから生かしたかった。初めて会った時から、ずっと見ていたかったんだ」


「そこまで思ってて何でわかんないんですか!それはサチさんが久音を愛していたからですよ!」


「そうなのか?」

サチは呆然と言った。

「そうなのか。久音を愛してしまったんだね。そうか、愛するってこんな気持ちなんだ」


夕凪は涙をポロポロ溢しながら言った。

「そうです、そして私はそんなあなたが好きになってしまったんです!」


「夕凪、夕凪の言う通りだったら、僕はまだ久音を愛しているから君を好きになる事はないんじゃない?」


「わかってます。今すぐじゃなくていいんです。ただ考えといて下さい。すぐにできる女が側にいるって事を!!」


「何故そこへ戻るかな、君は」

サチは苦笑して彼女を見た。大きな茶色の瞳は彼だけを写していて、その奥にあるものを彼はすでに知っていた。

久音と同じ、自分に対する恋情だ。


「私も必死なんです」

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