another time 24
仰向けになって居たショウは身体を押さえながら起き上がった。
周りには祥一郎達が取り囲んでいた。
「良かった、うまく行ったみたいだな」
「どうなったん?ここはもう、違う世界?」
辺りをキョロキョロ見回したが白っぽい霧のようなもやがかかっていて遠くは見えない。
「いや、ショウはナルシがいる世界のままだ。ここは正確にはショウの脳内だ」
自分の脳内に呼ばれるって不思議だ。
「でも転移は起こってたんやろ?」
「起こった。だから代わりの祥一郎が行った」
「え?どういうこと?」
「二人が分離して、一人がそいつを引っ張り出して投げた。投げた奴は違う方へ行った」
「二人が転移の力を利用して別々の世界に行ったんだ。君と離れた」
ショウは茫然と祥一郎達を見回した。
1、2、3…あれ?二人しか減ってない筈なのに18人もいない。
もう一度、一人一人数え直したが、12名しかいない。
「どうして!二人は肉体が無いやん!転移で連れて行かれたらもう、もう次の世界でも居られるかどうか、わからんのやで!なんで前もって言ってくれなかったんや!」
「誰が行くか相談して決めていた」
「僕相談されてへん!」ぐるっと彼らを見回した。
「ショウが寝てる間に、ずっと会議してた。来る日の転移に備えて」
「ショウが、我々が一番いい方法を選んだ」
「分離させるのにあんなに苦痛を伴うなんて悪かった」
「我々を入れる時も辛かっただろう?」
「そうだけど、そうだったけど、僕が決めた事やったし」
ショウはみんなに気を使われていたことに落胆した。代表だけど、みんなで過ごしてるつもりだった。
「それに、気付いてたか?最近何も意見しない祥一郎達もいる事」
言われてハッとした。
最近は戻って来た当初と違って反応が若干少なくなっている事を。そして意見を言うのは同じメンバーばかりになっていた。
みんな、慣れてしまって一々反応を返さなくなっているだけだと受け取っていた。
「静かな祥一郎達はどうしてんの?」
恐る恐る尋ねた。
「最近はずっと寝ている。正確には意識を保っていられなくなった」
「まさか!」
「祥一郎が統合されようとしている、私達はそう考えている」
「統合されたら祥一郎達は消えてまうの?やっぱり僕に入っちゃうん?」
ショウはパニックになった。
「僕のせいや!」
「それは違う!みんな望んで君のところに来たんだ。だから来ない奴もいただろ?あそこに居るのが嫌で外に出られるならと、リスクを負うことを選んだのは、僕ら祥一郎達自身だ。誰も後悔してない!」
「ましてや、身体と心に死ぬかもしれない負担をかけて連れて来てもらったショウには感謝している」
「でも、どうすればいいんや。みんないなくなってまうの?」
「転移の力に負けるか、きみの意識の更に奥に入るか」
「誰にも分からない。何故どちらかになるのか」
「そんな!他に何か方法は?それに残った意識のない祥一郎達は自力で出ていけない。折角この世界で、楽しそうに過ごせてたのに。
僕はそれぞれの古川祥一郎の話を色々聞いてん!みんな独立して暮らしてた。なのに、このまま消えるなんて、あんまりや」
「ショウ、消えるのではない。君の一部になるだけだ」いつも陽気な祥一郎が悟ったような真面目な顔で言った。
「それに、いいこともある」
「いいこと?」
「君の魂の重さが増えるんだ」
「魂の重さ?それがええことか?」
別の『学者』と呼ばれる多少理屈っぽい祥一郎がうなずいた。
「重くなれば、転移の力に対抗できる。我々はいくつもの祥一郎に分かれている。つまり魂が他の人より軽いんだ。だから不安定で外からの力に弱い。魂が元に戻れば他の人と同じように今の世界で暮らしていけるかもしれない」
「今回は間に合わなかったから、やむを得ず君の代わりに送りだしたが、次回までに残りの祥一郎を統合すれば対抗できる筈だ」
「みんな、それでええの?せめて僕が違う世界に行った方が一緒に行けていいよ。僕もずっと転移してきたんや。だから慣れてる」
「嘘つけ!あんなに嫌がってたくせに」
皮肉屋の祥一郎が言った。夕凪に最後まで文句を言ってた人だ。
「ナルシと別れたくないんだろ?」
「折角好きになれたのに勿体無い!」
「僕達は愛情がわからなかったんだ。ショウは凄い。君のナルシに向けた愛する気持ちは全員に伝わった」
「君に共感できるなら、一緒になっても大丈夫。できたら、忘れないで欲しいけど」
ショウは途中からずっと泣いていた。
「まだ全員いなくなると決まったわけでは無いよ」
「僕はまだ居るから、今のうちに何でも聞いてくれ」
「ナルシと一緒にあちこち連れてってよ」
「ショウと最後に食べたい物があるんだ」
「ほら泣かないで!ナルシが待ってる」
「ホント泣き虫だなあ」祥一郎達がみんな笑った。
祥一郎達に励まされ、ようやくショウは涙をぐしぐしと袖で擦った。
「ありがとう。みんなの事は絶対忘れへん。転移も、仕方ないって諦めてたんやけど次回はもっと抗ってみる」
「その意気だ!」
最後にみんなで円陣を組んだ。
「全ては祥一郎とナルシの為に」
「頑張ろう!」
ふっと一瞬意識が無くなったがすぐ目覚めた。いつものベッドだ。
「ナルシ、いる?」すぐ言った。
ナルシはぼんやりショウを見ていたが、ハッとして近付いた。
「ショウ、大丈夫か?どこか痛くないか?」
ショウは動こうとしたが背中とお腹がひどい筋肉痛で無理だった。
『祥一郎が出ていく時思い切り力込めたからだ』
「筋肉痛で背中とお腹が動くと辛いけど、そのほかは平気。心配かけてごめん」
「あー良かった、二日も寝てたから。それに普通のショウの喋り方だ」
「何それ?」
「ショウから光が出ていって、その前に透けてた身体は元に戻ったんだ。それに、すぐ目を開けたんだ!
でも妙にぎこちなくって、ショウは大丈夫だから寝かせとけっていう言葉を変な発音で切れ切れに言ったと思ったら、また気を失って。あの時はゾッとしたよ」
ナルシは苦笑しながら言った。
あ、他の祥一郎達が頑張ってくれたんだ。普段彼らは話さないので口を動かすのが大変だったのだろうとショウは推測する。その様子を想像して笑ったら猛烈な筋肉痛がした。イテテ。
「色々聞きたいと思うけど、また、追い追い話すよ。長い話になるから」
「わかった。我慢する。どうする?まだ寝る?」
「お腹空いたからコンソメスープ飲みたい」
「わかった。インスタントもあるけど作った方がいい?」
「うん、作ってほしい」
「わかった、できるまで寝てるといい」
ショウは素直に目を閉じた。
ナルシはショウの額にキスして台所へ行った。
ショウは「少しでいいよ」と言ったのだが、麺を茹でるとき使う深鍋一杯作ったので何日も飲むことになり、野菜の具を入れたり、トマトスープにしてみたりと味変して食べ切った。
でも、この時最初に飲んだスープの味は、いつまでも忘れなかった。
そして、2年経ち、また転移がやってくるのを感じた。
今回は予想もしなかったことが起きた。
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