another time 23
side 久音と残った祥一郎達
「ショウ、会いたいよー。僕が悪かったから、謝るから帰ってきてなー」
久音がいつものように泣いている。
「祥一郎で良ければ、ここにいるんだけどねえ」
よしよし、と祥一郎は久音の頭を撫でた。
「馬鹿にするな。お前はショウじゃ無い!」
「声と外見は全く一緒だよ。君なんて、外見から変わって、可愛くなっちゃって」
「可愛い言うなー前から言うてるのに」
「だって、君その身長、ふふ」もう一度頭を撫でられる。
久音はやはり、夕凪の力に負けて回復できず消滅しかけた。
この祥一郎の提案で身体を6、7歳ごろまで小さくして、力の流失を抑えた結果、何とか生き延びている。
夕凪のロープはだいぶ小さくなった穴にまだ通っており、このままでは身体を維持するのに精一杯で、ショウのところに行くのは勿論、覗くことさえできなくなった。
しかも残った祥一郎の1人は退魔師の真似事をしていたので、しっかり管理下に置かれている。
「幽霊や魑魅魍魎にはウンザリしてたんだ。ここなら君だけだし楽だな〜」
ニコニコしながら久音を見下ろした。
「上から目線、ヤメロ」
「嘘泣きも止めなさい」
「本当に嫌な奴」
久音は寝転がって目を閉じた。
「本当に、嫌な奴は僕だけやな」
「反省しなさい。時間はたっぷり有るんだから」
「よりによってお前と一緒なんてな〜」
祥一郎は横に並ぶと久音の頬にチュッと音がするくらいのキスをした。
久音は驚いて半身を起こした。
「可愛いなあ。仲良くやろう?もう一人の祥一郎はここでも引きこもってるから、実質二人だけだよ?」
「だ、だからって何でお前と」
「僕はショウそっくりなんでしょ?僕にしなさい」
「ロリコン」
「それが、僕には都合いいんだ。知ってると思うけど、僕のも小さいから今の君のサイズにぴったりかも。試してみない?ショウ君がいなくて欲求不満でしょ?」
「お前、それで俺に小さくなれ言うたんか!」
「ふふ、どうかな?それに久音は僕の年齢設定よりだいぶ年上だろう、見てくれはどうでも」
「僕はショウに嫌われた」
「でも、僕は古川祥一郎の一員なんだよ。ショウの気持ちは共鳴を受けたからわかるよ」
「ええな、ショウの気持ち、僕はわからん」
「記憶ももらったんだ。君元々はいい奴だったんだね。振られてもそのまま仕返しもしなかったし、ショウの為に雅詣を牽制してくれた」
「振られたのは
また寝転がった久音は自嘲した。
「あいつら高校からの同級生で、気安いんよ。僕は年数では勝てないからってムキになって。大人気なかったよ」
しばらく二人は無言で横になっていた。
「なあ、ホンマにナルシに投げて良かったんかな。ショウをホンマに幸せにしてくれるんかな」
「まあ、ちょっと偏執狂的ではあるけど、君みたいに傷付けたりは絶対しないと思う」祥一郎はクスクス笑った。
「昔はそんな事考えた事なかったのに、いつの間にかショウを傷付けてでも、手に入れたいって。徹底的に精神を打ちのめして、つけ込んで、身体も無理矢理奪って。でも肝心な心を掴めてなかった」
祥一郎は久音に手を伸ばして指を頬に当てた。
「泣くほど後悔するならやらなきゃ良かったのに」
そのまま久音の目から流れ落ちる涙を指に乗せて払った。
「そうやよな、こんな姿になっても、まだ未練がましくショウが欲しい」
「死んだ事で感情がコントロールできなくなったんだ。溢れる怒りや悲しみで消滅の不安を抑えていたんだ」
「そんな感情にずっと囚われてしまうから輪廻できないんだ」
祥一郎は静かに言った。久音は流れ落ちる涙を祥一郎にされるままだった。
「そのままほっといたら間違いなく悪霊になってたよ。良かったね、その前で止められて。僕が止めたんだけど」
「本当に止めてよかったんか?」
「こんなんでも、一人よりマシさ」
「腹立つなあ」祥一郎をチラッと見てから背を向けた。
「ほんま、腹立つほどショウそっくりやな!顔と声だけは」
「よかったね。身体も一緒だよ。僕に愛を叫んでくれていいんだよ」
「性格は違うし!ショウはもっと優しかった!」
「逃した魚は大きい、でも、諦めて次行くでしょ?普通は」
「次はもう無い。わかってるやろ?僕の寿命」
「うん、まあ、幽霊に寿命とは言わないな」
久音はじろっと睨んだ。
「そういうとこや、優しくないの!今度こそ消えてまう。何もならん」
「まあ、僕は転移だから、違うのかもしれないけど、延々と知らない世界で生きていくのも大変なんだよ?過去は無かったものにされるし」
祥一郎は久音の頭を軽く叩いた。
「君はこのままいられなくても、生まれ変われるから、一から馴染めるでしょ?その方がいいよ」
「僕は久音を騙る悪霊なんだろ?生まれ変われんやろ」
久音は頭に乗せられたままの祥一郎の手を小さな両手で掴んだ。
「関係ないよ、誰でも望んだらできる。しないのが悪霊になるけど、悪なんて人それぞれで、本人の心がけ次第さ」
「そんなもんかねぇ」
「僕を置いていっていいんだよ?」
「なんでそうなる。僕はお前のことなんか気にしてない」
祥一郎はショウと全く同じ薄い茶色の髪と透明な茶色の瞳を持っている。声も一緒だ。
あの瞳に見つめられ、話しかけられると最初の頃はショウを思い出してイライラして当たり散らすだけだったけど、最近はその瞳が自分をちゃんと見てくれていることに気付いた。
ショウに化け物と言われて我に返った、ただの久音へ、いつも静かにのんびり付き合ってくれている。
「僕はもう転移したくなかったんだ。僕自身の能力はついて回るから毎回謎の物怪?にずっと襲われるし、退治するのすこぶる面倒で倒すとそれで恨みを買って違うのがやってきて、心から休まる時が無かったんだ。転移しても前の記憶消えないし。100年、200年か、もうわかんないくらい転移させられて本当に嫌だった」
「200年やと?そんな昔からショウは生きてたんか?」
「だっていつも26歳になるまでに絶対転移するんだよ。次に始まる年齢はマチマチなのに。合計したらそれ以上あるかも」
「僕より全然長いやん。ショウは全然そんな素振りなかったで」
「他の祥一郎は転移後に殆ど記憶なくなるしな。同じ世界に26歳まで、はさすがに覚えてる人多かったけど、ショウはそれも忘れてた」
「それを知らないから、こっちはあちこち探したのに。ネットの口コミで異世界に行く入口があるっちゅうとこ数えきれないほど行ったのにな」
久音は身体の穴に通っているロープを無意識に引っ張りながらため息をついた。
祥一郎はその手を取って、触ったら駄目だよと子供に諭す様に言った。
夕凪特製のロープなので触れているものから力を吸い取るのだ。
「君に連れてこられて、出られないって聞いて、これでいいと思った。でも、油断して殺されて、生き返って今度は刺されたのは痛かったけど」
と態とらしく顔を顰めて胸をさすった。
「それは、悪かった。あの時はショウを手に入れるのに必死で、つらくて、他の事は全部気晴らしやった。怒りが抑えられなくて倫理観なんか飛んでた」久音は俯いて言った。
祥一郎はそんな奴は悪霊でも怪異でも、それこそ人間でもいる、と慣れた感じだった。一々反応してたらキリがないし、こっちが壊れる。
「行こうって言ってくれたショウには悪かったけど、僕が入ったら彼に僕の能力が受け継がれてしまうだろ?君が知ってる通り僕の力はかなり強力だからね。だから止めたんだ。
久音のおかげで、転移もないし、化け物いないし、初めて僕はここでゆっくり暮らせるよ」
「僕のおかげって?変なやっちゃ」
「本当の事だ。でも、最近平和すぎて退屈だ。はーっ、退屈なんて感じるの久しぶりや」
祥一郎はおどけて言った。
久音はふん、と鼻で笑った。
「じゃあ、僕が遺ぬまで付きおうたるわ。その後退屈で死ね」
祥一郎はパァーッと明るい顔になって笑った。
「素直じゃないな、全く。それ、僕の事好きになったって言ってるのと同じだよ」
久音は青白かった顔を真っ赤にさせたが否定はしなかった。
「そうだ!引きこもり祥一郎も入れてトランプしよう。トランプ位だったら久音の力ちょっと借りたら作れそうだけど、二人じゃつまんないし」
「えー、嫌や、あいつ絶対ここの真の主やよ。こもりっきりやん」
「まあまあ、冷やかしついでに行こうよ」
二人は立ち上がり、祥一郎はさりげなく久音の手を取って歩き出した。
「なんで手繋ぐ?」
「祥一郎は誰でも非力過ぎて抱っこもおんぶもできないから」
久音は舌打ちした。
「僕は三十歳で死んで、ここに何年か分からんほど居たんやぞ。おっさんやで」
「そっか、じゃあ、後で教えて欲しいことがあるんだ」「嫌な予感しかない」
「よろしゅう頼んますう」変な発音で嬉しそうに言った。
「そんなん、あんまり言わんで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます