another time 21

「それはおもんないな」(面白くないな)

「分かってくれた?夕凪を、帰してあげて」


「じゃあ、此処に埋めとくか!」


夕凪とショウがいる地面がいきなり柔らかくなって沈みだした。

ショウは慌てて夕凪を抱えて立ち上がったが黒い塊はそのままゼリーのように滑らかに二人を落とし込み、包み込んでいく。

「早く手を離さんと、二人とも埋まるで」

久音は平然とショウに片手を伸ばす。

ショウは夕凪を両腕でなんとか持ち上げている状態で、片手を離すと落としてしまう。


「僕はお前さえ居ればいい。夕凪は生きてりゃええんやろ?此処に埋めとくから、ショウ、早く手を掴めや。一緒に居てくれるんやろ?」



「久音、君はどうかしてる」

そう言うとショウは俯いた。



「もう、いいや」

ショウは首を横に振った。

夕凪を高く抱え直す。


「どうしたんや、ショウ?早う」


ショウの身体が震え出した。

「うるさいっ!黙れ!もう、堪忍ならん!」

怒りに燃える目で久音を見据えた。


「何酷いことばっかすんねん!僕はそんなことする奴大嫌いや。

君は誰や?久音じゃない。久音に似せたナニカか?

いや、外見さえ違うやん!お前みたいな奴もう知らんし、一緒になんてゴメンや。

どっか行ってまえ!

どうにでも好きに埋めたらええねん!でもな、夕凪がいるんや。変な夢見せたってもう騙されへんからな!」


ショウから向けられた、初めての冷たい眼差しと罵倒に、久音は今まで見たことがないほど激しく動揺した。


「何で?そんな、言い方すんなや。僕は本物の久音や!髪の毛と目か?

お前のせいでこうなったんやないか!ショウが大好きやったからこんなになっても頑張れたんや!

それでショウは僕を選んでくれたやないか!」


ショウはもう胸まで浸かってしまって再び固まってきたが、夕凪を必死に押し上げていた。


「頑張った?頑張った結果、僕を散々レイプして、挙げ句の果て殺したくせに!このバケモン!僕達を勝手に連れてきて殺しまくりやがって!

お前は単に人殺しや、この偽物!化け物のお前を選ぶなんてあり得へん!

こんな奴に騙されてもうて、僕は馬鹿やった」


ショウはついに決別の言葉を言った。

「久音は死んだんや!もう、何処にもいないんや!優しかった久音はもういない!お前は久音じゃない!」


久音は蒼白になって片手を出したまま全身を震わせた。

「嘘や、嘘や!ショウが僕をそんな風に思ったなんて!僕は、僕は、君のために死んだのに!君のために今いんのに」


ショウは久音の言葉を遮った。

「勝手な事言うな、恩着せがましい!僕の為?違うだろ!自分が良ければ周りがどうなっても、死んでもええなんて、久音はそんな自分勝手な、酷い奴じゃなかった!お前みたいな奴知らん!お前となんか一秒も一緒にいたない、夕凪といた方が全然ましやっ!』


「はぇっ!古川さん!」この土壇場で夕凪は目を覚ました。

「今告白されたよーな。え、やだ、またプルプルが!」

「夕凪!固まる前に早く逃げて」

ショウはできる限り両手を伸ばして夕凪を持ち上げていた。

「え、どうしよ?どうしよ?」


「そうだ!爆弾」夕凪、よりによって爆弾発言だ。

「わーわー!その先言うなー」

ショウは最後の力を振り絞って、暴走夕凪の言葉を止めねばならなかった。


ドカドカとよく見る黒くて丸い爆弾らしきものが周りに落ちて転がってきた。

「キャー」

「夕凪うるさい。余計なこと言うなや!」二人とも爆弾に囲まれた。

「え、古川さんがシャレを?」ショウは夕凪にどう突っ込めばいいか考えてる自分も嫌になった。

『やっぱり夕凪とも居たない』


「それより、シャベルとスコップ、あとロープが欲しいな」

上から久音と違うのんびりした声がした。


二人が慌てて見上げると。

久音がいなくなっていた。


代わりに上から何人もの「古川祥一郎」が覗き込んだ。

「大丈夫かい?」

ショウは久音と夕凪への緊張が溶けると気が抜けて、もう返事もできなかった。

夕凪は逆に手を激しく振って

「はい、古川さん達!」

と嬉々として答えた。

「古川さんがこんなに一杯!夢みたい!」

夕凪の目にハートマークが見えるようだった。


それ以上言わなかった結果として爆弾は消え、ショウからは見えないがガシャンガシャンと金属の音がしたので上に大量のシャベルとスコップと多分ロープが現れたようだ。

「いや、全員分は要らないんだけど」「多過ぎだ」肯定する声が幾つも聞こえた。


二人は祥一郎達によってあっという間に助け出された。

「みなさん、ありがとう、怪我治ったんですね」

祥一郎が他の祥一郎達に礼を言うシュールな光景だった。

「君があいつに頑張って言うこときかせてくれたおかげだよ」

一人が言うと他の祥一郎達がうんうんと頷く。

「でも、あの頑丈そうな檻からどうやって出れたんですか?」


「それがさ」別の一人が苦々しげに言った。「ひどいんだよ」

「急に大量の塩が落ちてきたんだよ」次々に発言する。

「目の前いきなり真っ白!訳わかんないよな」

「腰まで埋まったんだ」

「塩辛くて死ぬかと思った」

「僕は目に入って痛いのなんの」

「服の中まで入ってきやがって痒くて」

「消えたから良かったけど、塩っぱさだけ残ってさあ、口すすぐ水も無いし」

それぞれがぶつぶつ文句を言い出した。


「僕達だけじゃなくてこっちの祥一郎さん達にも大量に塩かけちゃったん?だから力使い過ぎて倒れたんや」


「だって、お葬式の時玄関で塩撒くでしょ?だから両方撒いちゃえと思ったんです」

「!」祥一郎達は全員夕凪を睨んだ。

夕凪はサッとショウの後ろに逃げた。

少し険悪なムードになったが、また別の1人が

「でも、おかげで檻があっという間に錆びて溶けていったんだ」と言った、

「そうそう」大多数が頷いた。

「自分も溶けるんじゃないかってヒヤヒヤしたけどな」まだ一人機嫌が悪い祥一郎もいた。


「それで、これどうするんだ?」後ろにいた祥一郎がポイっとロープでぐるぐる巻きにされた久音を放り出した。

「くそっ!放るなや!」

久音は身体の穴も何重にもロープを通されていた。

「痛々しいな」ちっともそう思ってないようにある祥一郎は言った。

「気持ち悪っ」夕凪は顔を背けて吐き捨てるように言った。


「ロープで縛ったってこいつは簡単に抜け出るかもよ」夕凪は指差して尊大に言った。いつも通り、終始こんな感じだ。


「さっき身体に大穴開いて塞ぐのに力いるのに地面動かすのも結構使ってしまったから、もう殆ど残ってない。しかも穴に夕凪ちゃんが作ったロープ何重にも通してるからお互い喧嘩してロープは消えないし身体も再生できない。ずっと力が大量に出たまんまだから」

違う祥一郎が自信有り気に言った。

「ま、時間経てば戻るかも?何百年かかるかわからんが。その前に消滅するでしょ」


「夕凪ちゃん、だってうふふ。なんだ、結果として私のお陰じゃない!感謝して下さい!古川祥一郎様達!」


「めちゃくちゃやり過ぎだ!」ショウを含めて二十三人

全員から怒られた。



流石にいじけている夕凪は置いといて、これからどうするか話し合いが行われた。

全部で二十三人もいる。できれば元の世界に帰りたい、全員一致の希望だ。

「本当にみんな元の世界に連れて帰られへんの?」

ショウは改めて元久音と断定されてしまった久音に聞いた。

他の祥一郎達に脅されて、久音は渋々と

「無理やって。並行世界が幾つあると思うてんの?俺は何回も試して行けたとこだけ行ったんや。誰が何処とかわかるかいな」と断言した。


皆黙ってしまった。ショウは最初の通り、自分は責任をとって此処に居続けると言ったが、他の祥一郎達から却下された。


「ショウも充分酷い目に遭ったじゃないか。君は帰れるんだから帰ったほうがいい。1人でも幸せな祥一郎が居ればいいじゃないか」祥一郎達は全員頷いた。


ショウは申し訳なくて泣き出した。

「僕は全員救いたい。じゃなきゃ帰れない」


「お人好しやよな、ショウは」やけになった久音が言った。

「全員連れて行ったれば?賑やかになるでー」

「久音…君はホント変わってしまったな」ショウは泣きながら寂しそうに呟いた。

久音は黙ってしまった。


「連れて行ける訳無い。同じところには1人しか存在できない」


「一つの世界に1人だけ―」


ショウにある考えが浮かんだ。あり得ない選択肢だ。

「皆さん」ショウは震えながらも決意を込めて言った。


「僕の世界に来ませんか?」


全員が一斉に反論した。

「何言い出すんだ、今言っただろう?1人しか存在できないって!」

「できたとしても同じ人間が二十三人もいたら流石におかしいだろう?」との言葉に何人かの祥一郎が笑い出す。「毎日交代で行くか?」「一月に一回しか回ってこないけど」

「僕は無理だよ、外に出たくない。ここに残る」多分ショウが入れ替わった祥一郎だ。


「いいえ、精神だけです。僕の中に入れれば、幾らいても1人だけで済みます」


「そんな事できるのか?」

「この空間なら精神だけでも生きられます。その間に移るんです」

「でも君の中に複数の人格が入れば多重人格者になるか、君の精神が耐えられなくて崩壊してしまうかもしれんぞ」


「それでも、どうして別れてるのか知りませんが元は一人だった古川祥一郎で、全くの他人では無い。それに、此処にいるよりマシでしょう?」

全員が静かになった。

ショウは両手を祥一郎達に差し出した。

「来たい人絶対全員連れて行きます。どうされますか?」


みんなが躊躇う中、ようやく1人が踏み出した。

「僕は大人しくしとくから連れてって下さい。また外の世界を感じたい」


「止めろっ俺のショウに触るな!俺のショウが居なくなる!」

久音がもがきながら叫んだ。


ショウは静かに言った。「君のショウはあそこで別れて、もうとっくに存在しなくなったんだ」


ショウは思い切ってやってきた祥一郎の手を掴んだ。

光が2人の手のひらを包んだ。


途端に頭の中が掻き回されるような感覚に吐きそうになる。祥一郎の精神だけなのに身体の中にめり込んでいく痛みもある。

『これ、毎回こうなるの?気持ち悪っ。辛すぎ。後二十一人?偉そうに言ったけど保つかな、僕』


次から次へと祥一郎がやって来た。光は広がってショウを包んだ。もう、何も考えられなくなった。

「夕凪、頼んだよ!終わったら僕を連れてって!」


「任せて!」

夕凪の張り切った声が遠くに聞こえた。

「その代わり」

その先は聞こえなかった。



ショウは目を覚ました。ナルシの家の畳部屋だった。

「結局二人残ったのか」

頭の中がザワザワしている。二十人の祥一郎+ショウだ。

「大丈夫か?」

「信じられない」

「やったな」

「静かに」

「混乱するだろ」

様々な声が頭の中でする。

「どうすればショウが」

「海見たい」

「水族館だろ」

「それよりこの状態は」 

「やめときゃ良かったかな」

「今頃言うな」


「皆さん!」ショウは言った。

「順番にお願いします」


「はい」

「分かりました」

「僕一番」

「くじ!」

「くじは無理じゃんけん」

「じゃんけんこそ無理」

「話し合い」

「静かにね」

「いや無理」

「カオス」

「ホントどうすんの」

ザワザワザワザワ


あー、これずっと続くんやよな。でも兄弟と親戚がいっぺんにできたみたいで意外と楽しい。

楽観的なショウだった。

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