another time 3.5
何もかも、一方的に奪われ、連れ去られた。あの世界ではもう僕はカケラすら残っていまい。
逆に夕凪の話す過去の話は忘れられない。
僕は自分の身体の性に囚われて、人間関係を中々構築できなかった。
夕凪は過剰な自意識とプライドの高さを他人に惜しみ無く見せていた。
こんな私で良ければ付き合え!と開き直っている。
少しでも自分が正しいと思ったら、生徒だけではなく、先生にも食ってかかるので、しょっ中呼び出される母親は
「出る杭は打たれるっていうでしょ?ちょっとは大人しくして!」と閉口したが夕凪はニヤリと笑って
「出てなきゃ認識されないし」と取り合わなかった。
授業中に、後ろの子に問題の解き方を聞かれたので振り返って教えていると、その態度にカチンと来た不機嫌な先生に当てられて今やってる問題の答えを求めた。
先生は夕凪が授業を聞いてないし問題すら写してないだろうと、してやったりと、ワザと意地悪く言ったのだ。
夕凪は意に反してサラッと答えを言ったのだ。
「先生がちゃんと説明しないから、〇〇がわからないって!私が代わりに教えてやってたの!」
堂々と批判して、しかも聞かれた答えも合ってたので、先生は何も言えずに何も無かったかのように授業を続けたのだった。
このせいでテスト前にやたら寄ってきて勉強を教えてくれと頼まれるようになった。流石に閉口して「自分でやってどうしても分からなかったら1日3回まで教えてやる」と、制限をつけるようになった。
先生には2度と当てられなくなった。先生が教え出すと教科書を凄い勢いで読んで、「これをやって」と言う前に終わっていて次の項目をやっている。
当日予習と名付けて広めようとしたが
「夕凪しかできないよ」と言われてしまった。
テストが返ってくると他の女子は点数の書かれた右端を三角に折って見えなくしていたが、彼女はワザと、折らずに周りに見せていた。
「私の努力の結果なんだから何も恥ずかしい事ない」
と言い放っていたが、そもそも彼女はどの教科でも90点以上取っていたから嫌がらせに他ならない。
女子同士の諍いも絶えなかったが、ある時女生徒が思い詰めた様子で近付いてくると、何も言わずに片手で肩をどんっと押してそのまま去って行こうとする。
夕凪は取り敢えず押し留めると2回肩を叩いてやり返した。
「私、やられたら最低2倍以上やり返す事にしてんの」
と意地悪く凄んだ。
さっきと違って怖がる彼女に無理矢理事情を聞くと彼女の彼氏が夕凪を好きになったから別れる、と言われた為だと渋々白状した。
しかも男の名前を聞いても夕凪は全く面識が無い。
「あんたにやり返しても意味なかったわね」
夕凪は馬鹿馬鹿しさを感じてそういう態度を取った。
「何組?その男」
高圧的に言うと、隣のクラスだった。
「じゃあ、行くわよ」
「え、何処に?」嫌な予感しかしない。
「その男の所」
本気で嫌がり出したが、夕凪がお構いなしにズンズン歩いて行くと慌てて後を追った。
隣のクラスのドアの前で中を覗き込む。「どこ?」夕凪の低い声に怯えて首をプルプル振って夕凪の服を引っ張って帰ろうとすがるが、教室の中にいた彼氏が気付いてやって来た。
彼女はパニックになって夕凪の腕ごと掴んで降り出した。
「花連、何だよ、如月さん連れて」
どう見ても逆なのだが、そう見えるのか。夕凪は首を傾げたが、まあ、いい。
「あなた、私の事知ってるの?」
「え、うん、隣のクラスだし、選択授業で一緒になるから」
夕凪は男を上から下まで視線を動かした。
「私はあなたを全く知らない」
男は少しがっかりして、そうなんだ、と言った。「じゃあさ、オレ達これから友達に」
遮った。「け、ど」すうっと息を吸った。
「私をだしにして、こいつ、かれん?と別れようとしたアンタしか知らない。けど、その行為は、最、低、だと思う」
夕凪は指を指して大声で断言した。
「そんなヤツとは知り合いにもなりたく無い!!」
夕凪は掴まれていた腕を振り解くと呆然としている2人を残して自分の教室へ帰って行った。
その男は「振る為にその前に振られた男」通称「フルフラ」と呼ばれるように、夕凪が命名した。花蓮とその友達がそのあだ名を勝手に広めていた。
女生徒とは何事も無かったように振る舞ったので、彼女の中で夕凪は親切な友人として扱われるようになったとか。
別に男が嫌いとかではなかった。密かに年上に憧れていたので1、2年上なだけの男しかいない学校では見つけようも無かった。
裏でコソコソ言う女子の方が大嫌いだったので、夕凪の彼女らに対する暴虐無尽振り(本人曰く)に、同級生の男子達の恋愛対象にもならず、夕凪に声をかけようとする猛者は現れなかった。
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