time 3


門柱だけ残って手入れしてない生け垣代りの木が繁る奥の平家の一戸建て。

この辺りは何軒か古い一戸建てが残っている。住んでるの僕とこだけやけどな。


彼は門の前で立ち止まった。

「エッ、此処?」


「誘っといてボロくてごめん」住んでるように見えないかも、と思いつつ鍵を開けた。


引き戸をガラガラと開けて「ただいま」と言った。

「誰か一緒に住んでんの?」

慌てたように言ったので、更にきまり悪くなって

「いや、一人暮らしやで。でも何と無くいつも言うねん」

と返した。

「じゃあ、お邪魔します」

「どうぞ」

壁際にあった二つスイッチを両方押すと玄関と真っ直ぐ続く廊下が明るくなった。

すぐ左側に6畳の畳部屋があるが、其処は通り過ぎて次の部屋に行くと廊下を挟んで右側に流しとコンロ、冷蔵庫、左に同じような畳部屋があって、真ん中にこたつが置かれていた。

その奥にも部屋があるようだが襖が閉まっていたので中は見えない。


「突き当たりの右に洗面所があるよ。顔洗ったら?みずしか出えへんけど」突き当たりに洗濯機が置かれてありその左は風呂だと説明した。


荷物を彼から受け取り、こたつの脇に置いた。ついでにこたつのスイッチをオンにする。

彼が洗面所に行ったのを見て押し入れにあるタオルを出して、そちらへ行った。


彼越しに洗面所のボウルの前の壁に付いている鏡の横のスイッチを押す。

「うわあ!」

彼は鏡を見てハンドタオルを外して顔を近づけた。

「やられたなあ」

ため息をついてから水を出してザブザブと顔を洗った。

後ろに控えていた僕はタオルを渡した。


「2、3日腫れるかもね」


彼は鏡越しに僕を見た。寂しそうに見えた。

こたつの部屋に誘導した。部屋の隅にポールハンガーがあるのでそれにコートを掛けるように言った。

僕はおにぎりを取ってからビニール袋を彼に渡した。


彼はこたつの前で正座した。

「ごめん今更なんやけど、俺、長嶺久音(ながみね・くおん)。改めてよろしく」

「いい名前だね。僕はショウと呼んで。君はクオンでえーか?」

「ああ、勿論、よろしくショウ」

お互い軽く頭を下げた。

「こたつ入りいや。寒いやろ、この家」

こたつに落ち着いた二人は、しばらく片やおにぎり、片やパンを黙々と食べた。

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