time 2

「送ろうか?」

思わず言ってしまった。


一歩近づくと警官も怪訝な顔でこちらを見た。


構わず座ってる彼に手を差し出した。

警官も彼も何も言わない。


当たり前だ。僕が不審者になってる。


でも引かない。


「どうして…」

しばらくの間の後ようやく吐き出した息と共に彼は不安そうな目で言った。

どうやら自分が聞いたときから息を止めてた様だ。


「暇だし」

ちょっと間を置いて

「これ以上飲みに連れ歩くのは、なあ?」

努めて無表情に淡々と話す。


「家ここの近所だから、宅飲みでもかまへんけど」


2人とも顔をしかめている。


「取り敢えず、立ったら?」


初めて自分が座ったままだと気付いたみたいに周りを見て。


「そやな」

あっさりこちらの手を掴んで立ち上がった。かなりふらつきながら。


怪しさを解消する為に持っていた財布のサイドポケットから「これ、免許証」と2人の顔の前に交互に突き出した。


「こがわ、しょういちろう」似合わない名前だといつも思ってしまい、ふふっと思わず笑ってしまった。


「いいんか?」と彼は上擦った声で聞いたので「かまへんよ、全く」と頷く。

「ほんまにいいんか?」

警官は2人の顔を見比べた。


「此処に朝までおるよりマシちゃう?」

微笑を残したまま、なるべく明るく言ってみた。

「ーうん。マシかも」

彼は新たに涙を溢しながらニッコリ笑った。


彼は掴んでいた手を離して「じゃあ、どうもお騒がせしてもうてすんませんでした」

警官に軽く頭を下げた。

「どうも。お気をつけて」警官はそう言って立ち去った。


「こっちやから」然りげ無く歩き出した。

「歩き?」

「うん、近くやねん」

「なんか買(こ)うていく?」

「あ、水かお茶」

「僕もおにぎりでも買おうかな」

「じゃあ、そこのコンビニ寄ろ」


「その前にはい」立ち止まるとカバンからハンドタオルを出した。

「顔当てとき」

「…ありが、とう」


彼は決まり悪そうに受け取り、涙を拭ってそのまま顔に押し当てた。

「ひどい顔だろうな」

「それより口の端痛そうやで」

彼はぐっと口を引き締めた後「いきなりでグーパン避けられへんかってん」と言った。

「その辺の事情は言わなくてええのに」

「ええんや、ありがとう」


彼はハンドタオルを腫れている方を隠しながら入店した。

カゴを持つとおにぎりコーナーへ真っ先に行ってシャケおにぎりを取った。

飲み物のコーナーへ行った彼を追いかけた。

「ジュースは染みるから止めときや」

「それは飲む勇気ないわ」


彼はミネラルウォーターを手にしたのでカゴを差し出した。

「俺もおにぎり買おかな。ラーメンは、染みるか」

一緒に付いて行き、ちょっと迷ってから昆布おにぎりを取った


「消毒するの無いけど買う?」

「あー、いいかな。口の中の切れの方がひどいかも。やっぱりおにぎり、口開けたら痛む。パンにする」

おにぎりを元の位置に戻して、パンの方を向く。ウィンナーの乗ってるパンを選んでいた。

「もういいんか?」

「うん」

「俺払うよ」彼がカゴを奪い取った。

「他にいいの?」

「もういらん」


彼はカゴをレジカウンターに置くと頬にタオルを当てたままリュックから定期入れを出してICOCAで支払っていた。

店を出て行く方向を指で示した。

彼は大きくため息をついた。

「大丈夫?」

聞くと、両手を上にあげて、うーんとうなって

「体は大丈夫かな」

にっと口の端をあげたが「痛っ」と言って顔をしかめた。。



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