第4話 美少女錬金術師を召喚したことにより、消失魔法を習得したんだが




「いやはや、そうでしたか! このテンマ村の領主になられたのですか。それはよかった。

 長らく領主不在だったものですから、爺、感激ですぞ」

「お爺さん、領主さまが引いてしまってますよ。でも、本当にあなたが領主なんて、未来に希望が持てるかも……!」



助けたのは、やはりテンマ村の住人だった。


いったん、白龍には引っ込んでてもらう。村人たちが恐々として、声も出せなくなっていたためだ。


俺は、話を伺いながら、村の中まで案内してもらうこととした。


「最近はずっと、瘴気の調子がおかしいんです。……でも、私と妹が食いっぱぐれないためには、どうしても山に行かなきゃならなくて仕方なくて」


とは、子供を連れた女性。


疲れて眠った子を寝かしつけながら言う。



どうやら両親が遠出の最中に行方不明になったとかで、歳の離れた姉妹二人で暮らしているらしい。


それにしても、である。


村で栽培しているものはないのだろうか。

あれば、わざわざ危険を犯す必要もないのに。



そう疑問に思いながら集落の中へと踏み入って、驚かされた。



「……えっと、ここが村…………?」


そこに広がっていたのは、かなり荒んだ光景だった。

がらんとして、数軒の家を除けば、あたり一帯に広がるのは草原だ。


畑は、ほんのひと区画だけしか見当たらない。

それも、見るからにやせ細っていた。


その奥には、廃墟じみた建物だ。


たしか領主の住まう館がある、と聞かされていたが…………


「あぁ、前の領主が住まれていたお屋敷はここです。ちょっと見た目が悪いですが……」


うん、やっぱりこれだった。


村人の手前、表立っての反応こそ控えたが、これはなかなか老朽化が著しい。

なにやらどす黒いオーラが立ち上ってさえ見える。


「今日のお礼があります。もう日も暮れますから後日、この爺めに直させてくださいませ」

「女手ですが、私も手伝います……!」


「ありがとうございます、助かります。でも、まずは自分でなんとかしてみますよ」


そもそも苦しい生活を送っていると思われる彼らに、これらの負担を課せられない。


ひとまずこう余裕の笑顔で答えて、そこで彼らと別れるが。


「つっても、こりゃさすがに寝泊まりもできないぞ」


俺が王都で暮らしてきたから貧相に見える、とかそういう次元ではない。

風が来たら吹き飛びそう、火がつけば炭まっしぐら、そんな見た目だ。


……さて、どうしたものか。


俺は腕組みをして、廃墟じみた館に目をやり、思い出した。


そうだ、まだ一回、【古代召喚】を利用できるのだった。


なにが出るかは分からないが、だからこそ、かける価値はある。


できれば、家を直せるような召喚であってほしい。


「スキル発動! 古代召喚!」


俺は未知の力に願いをかけつつ、さっそく召喚魔法を唱えた。


すると、目前に現れたるは、まばゆすぎる光の塊。


煌々と光ったのち、明滅し、やがて薄れていき


「おや、ついに……! わたくしの出番のようですね」


現れたるは、それはそれは美しい女の子だった。

ボブのピンク髪が特徴的な少女の見た目をしている。


見た目的には、10代後半だろうか。


ひらひらとレースのついた白服を召していた。


生地の量は多いのだが、肝心の胸元は緩く、フリルのスカートは危険領域をちらつかせる短さである。

その端をつかんで、彼女はちょこんと頭を下げた。


「お初にお目にかかります、ディル様。わたくし、シンディー・キーンと申します。

 召喚いただき、ありがとうございます。召喚いただく日を長らく心待ちにしておりました」

「シンディーさん……?」

「あぁん、可愛くないです、それ! シーちゃんって、呼んでくださいな♡」


夕日を長いまつ毛に乗せて、彼女はぱちんと瞬きを打つ。


し、シーちゃん……だってら。


「あはは、いきなりは無理ですよね、すいません。待って待って待って、やっーと会えたので、ちょっと先走っちゃいました。

 わたくし、錬金術が得意でございます」

「……………れんきん術?」


新手の魔術だろうか。


そんな術、聞いたことがない。


その妙な響きに、俺が首を傾げていると、その美少女は両足を跳ねさせて、俺の隣までやってくる。


……やたら、あざとい動きだ。


思わずどきっとさせられ、腰をのけぞった。恥ずかしながら、女性に耐性はないのだ。


「まぁまぁ、見ててくださいよ♡ ディル様。錬金作成!」


猫撫で声を発しながら彼女は、ボロ館に手を翳す。

なにやら長い詠唱を口にしたのち、


「…………え? なにをやったの」


奇跡が起きていた。

そんなものはないと言われても、そうとしか形容しようがなかった。


俺は思わず荷物を地面において、目を瞬く。


なんと、ボロ館が一瞬で生まれ変わっていた。


およそ新築としか思えない見た目に、だ。


何度瞬きしてみても、そこにあるのはまだ誰にも使われていないのでは、と思うような館である。


たしかに、さっきまでのボロ館では到底住めないため、どうにかしたいとは思った。


けれど、これは俺の考えていたものの遥か上をいっている。


自称・シーちゃんは、大きな胸を張り出し、腰に手を当てた。


「ふふん、どうでしょう! これが錬金です。錬金の基本は、同等エネルギーの変換。渾身の魔力で、辺りに積んであった木々などをここへ持ってきて組み上げたのです」


「……これ、もしかして古代の魔法…………?」

「古代、あ、そっか。ここ未来ですもんね! そっかぁ、この時代にはない魔法だったかぁ、錬金術」


「す、すごすぎるって、これは!」

「あら。もう、ディル様も使えますよ? お揃いですね♡」


……そうだった、召喚したら俺も使えるようになるんだった。



____________


【古代召喚】


四千年前の古代を生きた者の魂を実体とともに、現代に復活召喚させ、従わせる。

 また、そのスキルと同等の能力を得る。


(利用可能能力)

・龍の神力 レベル2/5

・錬金術 レベル1/5……同等エネルギーと引き換えに、様々なものを生成することができる。


 領主ポイント 0/1000


____________



実際、ステータスボードにも追加表記がある。


あまりに凄すぎて、訳が分からない。


が、物は試し。


「……錬金作成! って、本当にできた……」


玄関前に積んであった腐りかけの樽に、その錬金魔法をかけてみると、本当に綺麗なものになってしまった。


だが、代わりにそこそこ魔力を消費した感覚がある。

白龍と同程度の魔力のある俺でこうなのだ。


「は、張り切りすぎましたぁ……。もう立てない……! ディル様、おんぶしてくださいませ〜」


つまり、シンディーはかなりの消費量ということになる。

彼女は、完全にぺたんと地面へ座り込んでいた。


両手を伸ばし、俺の腰に触れてくる。

ちょこちょこと指を動かし、潤んだ目でこちらを見上げる。


仕草は変わらずあざといが、その額には汗が滲んで辛そうだ。


立てないほど疲労困憊の状態になってまで、俺のために家を新しくしてくれたのだ。


助けないわけにはいかない。


「あっ、ディル様♡ お背中、広い♡ それに、ちょっと垂れ目なのも可愛いし格好いいし……。あーもうっ、このまま一生ひっついてたい!」

「……いや、無理だろ、それ」


俺はシンディーをおぶって、新居へとなり変わった屋敷に入った。


疲れているだろうに、彼女は上機嫌だった。


ちなみに、なにがとは言わないが、

背中にあたるものが柔らかかったのはいうまでもない。

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