第3話 外れスキル【古代召喚】、実はチートスキルだった件


なにが起きたのか、さっぱり頭がついていかなかった。


分かるのは、とにかく窮地を凌いだということだけだ。


まず俺は、村民たちの様子を確認する。


まだ襲われる手前だったらしい。怪我などをしている様子はない。


「あぁ、神が舞い降りたのね……! ありがとうございます、ありがとうございます」


子を抱いていた女性は涙ながらに礼を述べ、老人の方は深々と頭を下げている。


とすれば、


「……えっと、龍さん?」

「吾輩の名は、この身体の通り『白龍(はくりゅう)』だ」

「あぁ、じゃあ白龍さん」



問題はこの、俺が召喚したらしい生き物だ。

彼には、聞きたいことが山ほどあった。


彼自身のこともそうだし、スキルのことだって、俺は何も分かっていない。


外れスキルが一転、窮地を救う大逆転のスキルとなった、この【古代召喚】。

これは一体、どんなスキルなのだろう。



俺の呼びかけに答えるように、白の龍は空から駆け降りてくる。


俺の身体を包むようにして、トグロを巻いた。

口髭を、俺の頬へと当ててくる。


「吾輩に、敬称を使う必要はない。そなたは、我が主人だ。ディルック様」


どうやら、信頼を寄せてくれた証らしい。


俺が撫で返してやると、その鼻息は機嫌良さげに荒くなった。


「えっと。俺が主人っていうのが、よく分からないんだけど、どういうことだ……?」


「ふむ、初めてならば無理もない。どうやらそのスキルで、召喚されしものは、そのまま主人の配下となるらしいのだ。

 事実、ここへ召された時点から、吾輩はそなたを主人として認識していた。

 命を再び授けてくれたそなたをな」


「……君ほど強い龍が、俺の配下に? 俺はただの元文官だぞ? 魔法もさっき使ったのが初めてだし」


「ふっ、強さのバランスを気にしておるのか。

 主人となったものは、配下にした者と同等の力を得るのだから、問題ない。

 それは、先ほど体感しただろう?」


……言われてみれば、さっき俺はたしかに火の玉を口から吹いたのだっけ。


実感に乏しかったが、今やってみても火は出るのだから、もう疑いようがなかった。


翼もないので、さすがに飛べるわけではなさそうだが。


「そういえば、【古代召喚】っていうからには、過去の時代から来たのか?」

「……うーむ、それは分からんが。なにか、そのスキルの詳細を見られぬのか」

「あぁ、そうか。ステータスボードか」


思わず、手槌を打つ。


外れスキルだと思い込んでから、もう幾年。

見られることすら、忘れてしまっていた。



前まではスキル名の表示しかなかったが、



____________


【古代召喚】

四千年前の古代を生きた者の魂を実体とともに、現代に復活召喚させ、従わせる。

 また、そのスキルと同等の能力を得る。


(利用可能能力)

・龍の神力 レベル2/5……体内の魔力が白龍と同等になり、その聖なる力を扱うことができる。




領主ポイント 1000/1000 残り一回召喚できます


____________


レベル表示や説明書き、さらには妙なポイント表示が加わっている。


…………もう一度、召喚を行えるらしいが、それはさておき。


あまりにも、桁が違う数字だった。


四千年前とこれば、もはや文献でも追いきれない時代だ。

ちょうどその頃以前の資料が、一つも残っていないのである。


今は亡き文明があったとかなかったとか、伝説だけが語り継がれている謎に包まれた時代だ。


「…………四千年前!」


白龍のいうことが本当ならば、俺は今、とんでもない生き物と遭遇していることになる。


「そうか、ここは四千年後なのか。ふっ、そりゃあ随分待ったと思った」

「……待ったって、言うと?」

「【古代召喚】のスキルを持つものを、だ。 

 まだ召喚されていない他の者も、みな御霊となり、この世に再び召喚されるのを待っておる」


なんて大仰な。

明らかに、常識の範疇を逸脱している。


でも、現実にもういるはずのない龍が召喚できたのだから、信じるほかない。


「ともかくせっかくこちらの時代にきたのだ。今後ともよろしく頼むぞ、我が主人よ」


取り乱したくもなるが、こういうときこそ冷静にならなくてはなるまい。


俺は元文官なのだ。

切り替えて、聴き込みを始める。


「なぁ。ちなみに『今後』ってことは何回も呼び出せるのか?」

「うむ、そのようだな」

「つまり、一度召喚したものを呼び出すために、このポイントとやらは不要ということか」


言い換えれば、召喚を行うたび、必ず他の魂を召喚できるということだ。

ふむ、なるほど。


「ぬ? 主人よ、それはなにをしておるのだ?」

「あぁ、スキルについてメモ書きを少しね。こういったことは、記しておかないと済まない性質なんだ」



整理すると、


・ポイントを使えば【古代召喚】を一度行うことができる。

・召喚したものは、俺の配下となり、俺にもそのものと同じ能力が付与される

・四千年前(古代文明のあった時期である可能性あり)

・言葉はほとんど同じ


こんなところだろうか。


領主ポイントとやらの貯め方など、まだ不明な点は多いが……


「だとしても、なんだ、このスキル…………!」


俺はつい、声にしてしまった。



外れスキルだなんて、とんでもない。




これは、むしろ激レアスキルだ。

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