第17話 紙とボールペンでスマイル

Side:ショウセイ

「ねぇ、文字を教えて」


 孤児院でメグがそんな事を言ってきた。

 教えるのは別に難しくない。

 なぜか俺は文字が読める。

 転移の特典なんだろうな。


 この世界の文字は数字を入れて42文字。

 とりわけ難しい事もない。


「よし、みんなを集めよう」


 取り出したるは100円ショップのコピー用紙とボールペン。

 なんと200円で紙が100枚とボールペンが10本。

 一人あたり10枚の紙と1本のボールペンを配る。

 200円でスマイル100円が千円分入った。


 全員で2千円ぐらい儲かった。


 よし、ホワイトボードも買おう。

 100円ショップのホワイトボードも買った。


 孤児院の食堂は教室に生まれ変わった。


「アーはこう書く」


 文字を一文字ずつ書いて読みながら教えていく。

 みんな真剣な眼差しで字を書いている。


「ぐにゃぐにゃと曲がって変なの」

「上手く書けないんだ。お前こそなんだよ。上手く書けてないじゃないか」

「こらこら、喧嘩しない」


 俺は仲裁した。


「そうよ。ショウセイがせっかく教えてくれているんだから。ほらそこ、絵を描かない」

「メグ、自由にさせてやれよ。自分のペンが持てたのがとても嬉しいようだからさ」

「はい」

「少し休憩しよう。飴を出すから舐めると良い」


 飴で2千600円分のスマイル100円。

 休憩を挟んで、追加の2千600円分のスマイル100円が入ってきた。


 紙は一日で消費してしまうとしても、美味しいな。

 学校に寄付出来れば、がっぽりと儲かりそうだ。

 今のところ、伝手は無いが、考えておこう。


「メグはなんで急に文字を覚えたがったんだ?」

「ルーペの商売を始めたら字を読んでほしいという声が上がったの」

「代読のサービスか。良いんじゃないか。単語帳を出してやるよ」


 サンプルに100円ショップの単語帳を出す。

 メグはそれを見て。


「こっちの方が良い紙を使ってるわね。もったいない」

「コピー用紙を切って作れるな。そっちの方が安上がりか」

「どうせすぐボロボロになるんだから、安い物の方が良いわ」


 文字を全部覚えきると、単語帳作りが始まった。


「うふふ、束ねるのに組みひもを使ったの。可愛いでしょ」

「俺は束ねるのに針金だ。やっぱ男は頑丈さだよ」


 みんな楽しんでくれているようだ。


Side:メグ


 字を教えてくれるように、ショウセイにせがんだ。

 快くショウセイはやってくれた。

 文字を覚えるのは楽しい。

 本が読めるようになればいいな。


 でも、本は高いと聞く。

 駄目よ、無駄遣いしちゃ。

 ショウセイを笑えないわ。


「ええとこの単語はゴブリン。こっちは100頭」


 冒険者ギルドで実地訓練よ。

 依頼票を読んで分からない単語を単語帳に書き込む。

 後で院長や親切な人に教えてもらうの。


「なかなか面白い事を始めたな」


 ギルドマスターが子供達のそばに来て言った。


「文字を読む訓練よ」

「ああして分からない単語をメモしていく訳か」

「ええ、表に単語。裏に説明よ」

「どれどれ。23頭。説明は両手の絵が二回と三本の指か」


「どう、考えているでしょ」

「こういうのはな。発音記号を書くと良い。暇だから教えてやるよ」


 ギルドマスターから発音記号を教わった。

 何ほどね。

 表に単語。

 裏に発音ね。


「ありがとう。みんなにも教えるね」

「ところでこの紙は上質だな。ギルドに納める様にショウセイに頼んでみてくれないか」

「ええ、聞いてみる」


 やった、注文を取ったわ。

 急いでショウセイのもとに行く。


「ショウセイ、ギルドに紙を納入して欲しいんだって」

「そいつは困ったな。スマイル100円が取れるかどうか」


 難し気なショウセイの顔。

 私、何か失敗した。


「駄目なら断っても」

「泣きそうな目をしなくても良いさ。試しに寄付してみるよ」

「駄目よ。がっぽり稼ぐのよ」

「良いかい。商売は、売り手笑顔、買い手笑顔、世間笑顔、三方笑顔じゃないと駄目なんだ」


 凄い言葉ね。

 売った人も買った人も周りの人も皆が笑顔なのね。


「凄い。ショウセイは商売の奥義を知っているのね」

「まっ、昔からある言葉をもじっただけどな」


 ショウセイはギルドに紙を寄付し始めた。

 ショウセイの紙はギルドで大人気になった。

 ギルドマスターによればペンが引っかからないのだそう。

 流石、ショウセイの商品。


 ショウセイは『うほっ、案外儲かる』と言ってたけど、寄付したのよね。

 変なショウセイ。

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