第16話 ルーペでスマイル

Side:ショウセイ

 子供達の仕事を見学という事でメグについていく。

 着いた場所は掲示板にカウンターがある場所で、併設された酒場。

 小説にある冒険者ギルドにそっくりだ。


「もしかして、冒険者ギルド」

「良く分かったわね。もしかしてもう来た事があるの?」

「ないけど、物語で聞いていたから」

「勇者様の物語にも出て来るから、確かに有名ね」


「ここで子供達はどんな仕事をするんだい?」

「道案内とか伝言を運んだり色々だよ」


「なるほど、小間使いみたいな仕事か?」

「そんな高級ではないけど。まあね、そんなところ」


 俺は掲示板を眺めてみた。

 うわっ、文字ちっさ。


 小さいメモ帳ほどの大きさの紙に、びっしりと文字が書き込んである。

 ええと、小さくて見づらい。


 ルーペを出して文字を読んだ。


 『薬草、頼む。薬草の種類はキアリー草で冊子159ページを参照と。分布図は座標584の168と。よく似た毒草があるので注意されたし。採取方法は根っこごと持ってくること。依頼主、カンノ薬草店。依頼金額は銀貨1枚と銅貨5枚』と書いてある。

 なるほどな。


 分布図とか図鑑のページまで書いてあるのは親切だな。

 だが、ここまで書かないと仕事にならないんだろうな。

 自分で調べたりしてたら、一日の大半を調べ物をして過ごさないといけない。


「依頼書を見て感心したの。この方法はね、勇者様が考えたんだよ」


 確か勇者も異世界転移した人間だったな。

 事務をやった事のある人間だったかも知れない。


「うん、効率的だ。依頼書が小さいのは何で?」

「使い捨てだから、勿体ないって事じゃない」

「それにしても。そこまでケチらなくても」


「その大きく見せる道具を、私にも貸して」

「どうぞ」


 メグが依頼書を眺める。


「この道具があれば孤児の仕事が一つ増えるのに」

「なら、寄付しようか。さほど高くないんだ」

「ほんと。やった」


 100円ショップのルーペを3つ出してやった。

 どう使うのか見てたら。


「文字を大きくする道具どうですか。一回銅貨1枚」


 そう言って孤児が冒険者に声を掛けている。


「おう、頼む」


 冒険者から声が掛かった。

 孤児がルーペを冒険者に差し出す。


「こりゃ良いな。売ってくれないか」

「駄目。飯のタネは売れない」

「しっかりしているな」


 孤児がにっこり笑い。

 スマイル100円頂きました。


Side:メグ

 冒険者ギルドにショウセイを連れて行った。

 ショウセイは入るなりジロジロと色んな物を見て回った。

 楽しんでいるようで良かったわ。


 依頼票を見てショウセイがルーペという物を出してきた。

 不思議だわ。

 物が大きく見える。


 年長の孤児たちにルーペを使わせる事にした。

 冒険者達はルーペを見ると欲しいと言い始めたわ。

 やっぱりね。

 飯のタネは売れないという断り文句を教えておいて正解だったわ。

 冒険者にとって自分で工夫した道具や情報は売れない。

 飯のタネは売れないと言う文句は何度も聞いたわ。

 こう言って断れば、怒らない。


「また、面白い商売を始めたな」


 私に声を掛けてきたのは、この冒険者ギルドのギルドマスター。

 名前は知らない。

 冒険者もギルマスだとかマスターとか呼んでいる。


「凄いでしょ。ショウセイが持って来た道具なのよ」

「仕組みは眼鏡やモノクルと一緒だな。これを売ったら。そうだな、金貨1枚はいくだろう」

「そんな事言っても売りません。飯のタネは売れないですから」


「気をつけろよ。暴力で取り上げるような性質の悪い奴もいるからな」

「大丈夫。ルーペの端にルペイン孤児院所有と書いたから。傷をつけて書いたので、消すのに苦労するはずだわ」

「孤児院の名前が入っている物を奪うのは外聞が悪いか」

「ええ、孤児院出身の冒険者もいるし、誰か助けてくれるはず。ところで懐中時計というのがあると聞いたの」


「おう、俺も持っているぞ」

「高いの?」

「そうだな金貨10枚くらいか」

「えっ、そんなにするの」


 ショウセイがお金持ちなのが良く分かったわ。

 ルーペみたいな貴重な物をポンと平然と与えてる事が出来るほどのね。

 一体いくらぐらい持っているのかしら。

 無駄遣いしないように言わないと。

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