第4話 歯磨きでスマイル

Side:ショウセイ

 ブリタニーちゃんの案内で井戸にやってきた。

 うほっ、井戸の現物を初めて見たぞ。


 何か欠けている気がする。

 そうだ滑車が無い。


 桶にロープが付いているのが井戸の脇にある。

 桶を投げ込んで引き上げるのだろう。

 やってみる。

 重いが持ち上がらない程ではない。

 苦労して疲労困ぱいで持ち上げた。


「ふはぁ。運動不足だな。薪割りから、まだ回復してないとみえる」

「やわな奴」


 赤毛のジータが囃し立てた。


「そんな事を言うとチョコをあげないぞ」

「ごめん」


 俺はチョコレートを出してやった。

 やはり600円ゲット。


「口の中がさっぱりしなくて嫌なんだろう。水でゆすげばいい。待てよ。あれを普及させるか」


 あれとは歯磨きだ。

 子供用歯ブラシ98円のを6本出す。

 俺のは218円の大人用。


 歯磨き粉は子供用いちご味の177円だ。

 散財した気もするが、習慣になって毎回感謝を貰えるかもとの期待がある。


「さあ、歯磨きしよう」

「歯磨き枝じゃないのね」


「そうだよ。俺がやるから真似するんだ」


 歯ブラシに歯磨き粉を付けて歯磨きを始めた。

 子供達も真似をする。


「うへぇ、薬の味がする」

「私は好きよ」


 子供達の反応は賛否両論だ。

 歯磨きを嫌がる子がいるのは当たり前だ。

 いちご味でも駄目だったか。


 感謝の笑顔は200円しか貰えなかった。

 こういう事もあるか。


「歯ブラシはあげるから、食後には歯を磨くんだぞ」

「歯ブラシは枝よりいい」

「くれるの。嬉しい」


 歯ブラシはみんな気に入ってくれたようだ。

 感謝の600円を貰えた。


「ちなみに歯磨き枝ってのはどんなんだ」

「これだよ」


 井戸の脇に生えていた枝を折ると俺にくれた。


「噛んでぼそぼそにして使うんだ」


 子供に教わってやってみる。


「おお、なるほどね。これはこれで良さそうだな」


 歯磨きセットは異世界人にはイマイチか。

 ミント味の歯磨き粉も出してみた。


「スーっとして、こっちの方が好き」


 気に入ってくれた子もいる。

 感謝の200円が入って、黒字にはなった。


 ちなみにスマイル100円だが、目の前に居なくてオッケーらしい。

 歯磨きを持って帰った家からも収入が入った。


 歯磨きは液体や高級な奴など色々あるので、各人に合ったのを出す必要があるな。

 歯磨きは何十回と使えるので出した後は不労所得だ。

 各人に合わせてやるぐらいは良いだろう。


Side:ジータ


 みんな一緒に井戸へ行き歯磨きする事になった。

 いちご味というのはどうも好きになれない。


 口の中はさっぱりしたけど、これだったら枝で磨いている方がいいな。


「私、いちご味大好き」

「いちごはね。ケーキなんかに使うんだとっても美味しいぞ。今度出してやるよ」


 ショウセイという男がそう言っている。

 ケーキって何だ。

 食べた事がないや。

 美味いのかな。

 でも、いちごだろ。

 あんまり期待が持てないや。


 続いて出してくれたミント味の歯磨きに、俺はびっくりした。

 スーっとして気持ちいい。

 こういう奴を待っていた気がする。


 これこそ大人の味。

 いちご味なんて所詮はお子様だな。


「ミントが好きかい」

「好きだ」


「よし、内緒でキシリトールガムを出してやろう。ミント味だぞ。歯に良いんだ」


 ガムというのを貰った。

 噛むだけで食べたらいけないらしい。

 口一杯にミント味が広がって鼻がスーっとする。


「何食べているのよ。ひとつ寄越しなさい」


 ブリタニーに見つかってしまった。


「くそう、見つかった」


「口をくちゃくちゃやっていればね」

「みんなに言うなよ」


 ワイロとか口止め料とか言うんだっけ。

 ブリタニーの口の中にガムを放り込む。


「スーっとする味なのね。甘いのは好きだけど、果物味の方が良いわ」

「だから子供なんだよ」


「キスするんだったら、こっちかも」

「お前……」

「やーい、ジータが赤くなった」


「ほんと、真っ赤だ。ブリタニー、何言ったの?」


 クロエに真っ赤になったところを見られてしまった。

 からかわれた、屈辱だ。


「お前らなんか子供舌の癖に」

「ジータは大人だから、エッチなのね」

「くそう、覚えてろ」


 ミント味のガムを口に放り込む。

 噛んでいると悔しさが和らいだ。

 お前らにはミントの良さは分からないさ。

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