子供が二人いる。



 突きつけられたのは、身に覚えのない事実であった。

 考えられる可能性はいくつかある。たとえば、妻が知らない間に妊娠し、運悪く流れてしまっていた可能性だ。とにかく何か、他の実績からヒントを得られないものか。

 そう思って探し回っていると、とあるパネルが消灯していることに気づいた。



 流産を経験した



 つまり、前述の可能性はないということだ。

 ならば他に、なにがある?



 妻の浮気はありえない。さきほどのパネルがそれを証明してくれている。私自身の浮気も、パネルと記憶が否定している。

 学生時代の彼女とは清い関係だった。ならば、他に、ありえるとしたら……。



 思い出した。



 二十数年前、たった一度だけ、心当たりがあった。



 あれは、まだ夜の街で遊んでいた頃のことだ。

 アジア人の女に誘われ足を踏み入れた、うらぶれたビルの一室。そこで、風俗嬢とすら呼べない売春婦の女と一晩寝たのだ。

 少しばかり手持ちに余裕のあった私は、女を脱がせるために五千円。女を抱くために一万円。避妊具を外すために五万円を支払った。

 そこそこの大金を払った私は、苛立ちからか約束を破った。必ず外に出すという、口約束だ。

 その翌日、冷静になってから性病に怯えていたのを覚えている。

 だから、つまり、あれが……当たっていたのだ。



 肩を落としながら、とぼとぼと歩く。

 彼女には申し訳ないことをした。どうせ避妊薬を飲んでいるだろうと思っていた。それがまさか、こんなことになっていたとは。

 その子供は、今どうしているのだろうか? まだこの国に住んでいるのだろうか? 学校には、行けたのだろうか?

 ……いいや、流産していないだけで、堕胎はしたかもしれない。そうだ、そうに決まっている。

 所詮、相手は売春婦だ。同情してやる必要もない。ああやって何度も体を許していれば、二度三度は経験するだろう。中絶にいくら掛かるかは知らないが、出せない額ではないはずだ。



 そうやって自分に言い聞かせ、最低の言い訳で心を落ち着ける。



 再び顔を上げると、一枚のパネルが目に入った。



 子供と同じ会社で働く――9%

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人生の実績解除 抜きあざらし @azarassi

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