どうやら、このパネル群はある程度の法則性を持って並んでいるらしい。

 ざっくりと、人生の大枠に関するもの、恋愛に関するもの、家族に関するもの、趣味に関するもの、などなど。最初に居た場所――中心から離れるにつれ、専門性が強くなっていく。



 課長クラスになる――22%

 優秀な部下を持つ――11%



 なるほどこの辺りは仕事に関する事柄か。部長代理では部長クラスにカウントされないということだろう。なんとも手厳しいものだ。

 優秀な部下と言えば、一人心当たりがある。

 数年前に中途で入社したハーフの青年だ。家庭の都合で中学卒業後すぐに働き始めたらしい。理由はわからないが母子家庭らしく、昔から苦労してきたそうだ。

 優秀である上、どこか過去の私に雰囲気が似ていて……殊更に目をかけている。

 他にもいろいろあった。『接待ゴルフをする』だとか、『経費で旅行に行く』だとか。中には、『パワハラをする』などという項目まであった。最近はいろいろと厳しいので気をつけているのだが、確かに昔は部下に手を上げたこともある。だが、セクハラの項が消灯していたのは小さな誇りだ。



 しばらく進んで気づいたのだが、消灯しているパネルの中にはなにも書いていないものもある。どうやら、全ての未達成項目を確認できるわけではないようだ。

 そう言えば、ゲームの実績画面にも確認できないものがあった気がする。どんなものがあるのかとても気になるが、次にいつ確認できるのかはわからない。今が人生の折返しと考えると、死ぬ時か、あるいは百歳まで生きれば……いいや、やめよう。



 しばらく進み、『社内恋愛をする』というパネルを通り過ぎてから、項目が様変わりした。



 2人以上と交際する――44%

 10歳以上の年齢差で交際する――39%



 なるほど、ここは恋愛に関するエリアか。社内恋愛が境目だとすれば、この並びにも納得がいく。



 それにしても……この実績は、妻との馴れ初めを思い出させる。



 妻とは十二年前、社内恋愛の末に十九歳差で結婚した。妻があと一歳若ければ、あるいは私が一歳老いていれば、二十歳差の実績も開放できたのだろうか。そう考えると、どこか勿体なさを感じさせられる。決して、今の人生に不満があるわけではないのだが。



 それから少し進んだ先のパネルに、思わずドキッとさせられた。



 浮気をしたことがある

 浮気をされたことがある



 どちらもパネルは消灯していて、ほっと胸を撫で下ろす。

 なるほど、知りたくない事実を突きつけられてしまうことも、往々にしてあるのだろう。

 そこでふと、気になった。

 私が目を覚ました時、ここで見たものを覚えているのだろうか。

 私以外の誰かも、こうして人生の実績を確認していたのだろうか。

 パートナーの不貞を知り、目をまし……もしおぼえていたのなら、彼らはこの先の人生をどのように過ごすのだろうか。



 知るはずのない情報を、胸に秘めて生きていくのだろうか?



 考えても致し方無いと、かぶりを振って雑念を振り払う。

 少なくとも、私の周りに人生の実績について話す先達は居なかった。きっと、それが全てなのだろう。



 それからしばらく進んでいくと、家族に関するエリアに辿り着いた。

 一番最初に目についたのは、『子供を大学に通わせる』という消灯パネルだ。これは是非達成しておきたいものだった。



 子供から誕生日プレゼントを貰う――35%

 子供を抱いている時にお漏らしされる――42%

 家族旅行に行く――72%



 娘や妻との思い出に浸りながら、しばらく進んでいく。



 子供が結婚する

 子供の誕生日に10万円以上のプレゼントを買う――33%

 養子を迎える

 男児をつくる――82%

 女児をつくる――83%

 子供を二人つくる――78%



 そこで、なにかがおかしいことに気づいた。

 私の子供は、娘が一人だけのはずだ。

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