第13話 百合ですか?

 繭梨先生の投稿を見て考える。

 描けないって言ってるということは、イラストに関することだろう。そして『あんなこと言われたら』は、そのイラストに対しての感想で何か嫌なことを言われたのかもしれない。

 そう思った俺は、繭梨先生が今日上げためちゃくちゃ可愛い俺好みのイラスト投稿のコメント欄に飛んだ。

 そこで見つけたのは、そのイラストにたいして[下手くそ][可愛いくない][パクリ?]などの酷い中傷だった。


「最悪だな、コイツら……」


 コメントの大多数はもらって嬉しい感想ばかり。だけど、創作をしてそれを発表していると、どうしてもその類のアンチが湧くのは俺も知っている。

 中傷を書き込んでいるアカウントを見れば、直近で作られたものがほとんどだから、アンチ行動をする為だけに作ったんだろう。

 推しのレイヤーさんもそういったアンチのコメントで困ってるのを見たことがある。


「まじクソだな」


 きっと繭梨先生はこんな事を言われるのは初めてでは無いはず。だけど、今まで我慢して耐えてきたストレスが、今回爆発してしまったのかもしれない。


 だから俺は同じ創作者として、少しでも元気になってもらおうと思い、『リア先生、投稿見たんですけど大丈夫ですか?』と、メッセージを送る。

 それからすぐに風呂から上がり、部屋に戻ったところで電話がかかってきた。相手は繭梨先生だ。


「はい、空園です」

『あの……リアです。いきなり電話してゴメンなさい』

「全然大丈夫ですよ。それよりもリア先生こそ大丈夫ですか? 描けないって投稿してたから心配になってしまって。なにかあったんですか?」

『……ありました。凄くショックなことが……』


 やっぱり……。ここは慰めてあげないとだよな。うん。


「気にしない方がいいですよ。あんなアンチなんて気にしないでどんどん好きな絵を描いてください。俺、リアさんのイラストホントに好きですから」

『……はい? なんのことですか?』


 ……ん?


「あ、あれ? イラストへのアンチコメで凹んでるんじゃ……」

『いえ、全然。そういうの気にしてないので』

「え?」


 じゃあなんだ? なんでなんだ?


『ワタシが凹んだのは違う理由ですよ』

「違う理由?」

『はい。空園先生は……その……烏丸さんと付き合ってるんですか?』


 ナンダッテ? この子はいったい何をイッテルンダ?


「あの〜、いきなりなんのことでしょうか?」

『だって聞いたんですもん! 聞きたいことがあって、一時間くらい前に烏丸さんに電話したら言ってたんですもん! さっきまで空園先生と一緒にいたって! そしてお姫様抱っこで部屋まで送ってもらったたうえに、ベッドに優しく置いてもらったって!そんな話とか色々聞いたら描けるわけないじゃないですかぁ!』

「……はいぃ!? いやいやいや! 付き合ってませんから! ただの作家と担当ってだけですよ!? ただ飲みながら仕事の話をして、烏丸さんが酔ってて危ないから送っていっただけですから!」


 あの酔っ払い担当なにしてくれてんだぁ!? ほんとプライベートはポンコツだなぁオイ! つーか玄関に放置したからベッドになんか連れて行ってないっての! ……まぁ、運ぶ時にお姫様抱っこはしたが。そっちの方が楽だったからな。しょうがない。


『ホントですか?』

「本当ですよ。でもなんでそれが描けない理由に?」

『だって……失恋しちゃったのかと思ったんですもん……』


 え? まさかの百合? 俺、百合に挟まる男ポジションやっちゃったのか?


「もしかして……烏丸さんの事、好きだったんですか?」

『違います〜! ワタシが好きなのは空園先生ですっ!』

「へ?」

『……あっ』


 そして、沈黙が始まった。

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