第11話 期待してるから
あれから俺は酔い潰れて寝てしまった烏丸さんを横にし、冷たい目をした悠華先輩が持ってきた追加注文分を一気に腹に流し込んだ。
それからすぐに会計をしてもらい、タクシーを呼んで烏丸さんのアパートへ。
酔い潰れた烏丸さんをおんぶしている俺の姿を軽蔑の眼差しで見てくる目が怖かった。
アパートの前に着くとタクシーには下で待ってもらい、烏丸さんを抱えてダッシュ。そして以前のように鍵を借りると、「誰も待ってない部屋はイヤ……」と嘆く烏丸さんをベッドの上に放り投げて鍵を閉め、ポストの中にその鍵を投げ込むとタクシーまで再びダッシュ。
「さっきの猫民の前まで!」
「兄ちゃん何かあるんだな? 任せとけ! オレっちはこういうのに憧れてタクシーの運ちゃんになったんだ」
「どゆこと!?」
きっとタクシーの運ちゃんは刑事ドラマの見すぎだろう。
そんなことよりも今は先輩だ。絶対烏丸さんと俺の事を誤解してる。ほんとに何もないのに、その誤解のせいでデートの約束が無くなったら俺は泣く。
「八時半か……」
すぐに戻ってきたからさすがにまだバイトは終わってないハズだと思い、猫民の前に着いた俺は足を踏み出した。
「いらっしゃいま……あ、久我くん……」
自動ドアが開くとすぐに先輩がいた。俺を見て驚いている。それもそうだろう。さっき店を出たばかりなんだからな。
「一人です。出来れば個室で」
「……わかりました。ご案内します」
「ちゃんと説明させて下さい」
「……あとちょっとで休憩貰えるから」
先輩はそう言って、次の客の対応に戻って行った。
さすがに何も頼まないのも店から冷やかしだと思われる為、適当なツマミとお茶を頼んで先輩が来るのを待つ。
それから三十分程経ってから目の前の戸が開いた。
「やほ」
「あ、お疲れ様です。先輩」
「うん、ホントに疲れたよ〜。でもまぁ週末よりは楽かな。あ、でも……」
「でも?」
「デートの約束してた人が綺麗な女の人と一緒にいたから、胸が痛むの……」
そう言って先輩は俯いて顔を隠してしまった。
ヤバイ!
「だ、だからそれは!」
「な〜んてうっそ〜♪」
「へ?」
「よく考えたら久我くんがそんな器用な事出来るわけないなぁ〜って思って」
「そ、それは喜んでいいのかどうなのか……」
「でもビックリしたのはホントだよ? それに別に付き合ってる訳じゃないし、私がどうこう言える問題じゃないからね」
「うっ……」
それは確かにそうなんだけど……と、ハッキリ言われて凹んでいると、悠華先輩が呼び出しボタンを押した。
するとすぐに戸が開き、店員さんがテーブルの上に料理を並べていく。
「ん? んん? これは? 俺、頼んでないですよ?」
「あぁこれは私のご飯。ほら、休憩って言ったでしょ? 食べないとラストまでもたないからさ〜。久我くんも一緒に食べよ? さっきあまり食べてなかったでしょ? 大丈夫。社割でかなり安くしてもらってるから遠慮しないで?」
「いやいやいや、それでも!」
さすがに奢ってもらう訳にはいかないと思って財布を出すと、その手は先輩に押さえられてしまった。
「だ〜め。その代わり……今度のデート、期待してるから♪」
「あ…………はい!」
まいった。そう言われたら頷くしかないじゃないか……。
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