第1章 覚醒~脱出 4 虜囚

食事の後はお医者様が診に来てくれました。

私も頭の包帯を替えてもらいましたし、痛みが酷いようならと痛み止めのお薬も頂きました。

声を掛けて正解でしたかね。

怖かったですけどね。


その後はみんな静かにしていました。

マリやネネちゃんは泣いていましたが、ネネちゃんはダンお兄さんやルイ兄さんが慰めていましたし、マリは私が抱き締めて泣かせておきました。


残った家族も一緒に脱出した家族も、どうなったのか判らないのですからみんなが暗くなっていても仕方がないでしょうね。


それから3日位過ぎてみんなの気持ちが持ち直した頃、私達の虜囚の旅は終わりました。



「広いなぁ~」

ジル兄が声をあげるのも納得ですね。

舗装されてなくても整地された平らな地面の先には起伏の少ない草原が何処までも広がっています。


その先には針のように尖った山が初夏の空を貫く様に幾重にも重なって見えます。

私達の浮島よりずっと大きい浮島みたいです。


空気の感じは、神殿が崩れた後、高度の下がった私達の浮島と同じぐらいの高度に近いと感じますね。


ずっと閉じ込められていましたから、みんな外の日差しに眩しそうにしています。


「マリ、大丈夫ですか?足元に気をつけてね」

「私は大丈夫だよ。セラちゃんこそ平気なの?頭を怪我してるし」

「問題ありませんね」


マリとお互いに掴まりながら、みんなと一緒に飛行船から降ろされると、馬車ではなく、毛長牛に牽かれる輸送車に荷物と一緒に載せられました。


その後、草原とは反対方向の小高い山の方に向かいます。

何隻もの飛行船の間を抜けて運ばれてます。


飛行船は船の横から広がっていた翼を折り畳み、マストの帆も下ろしています。

船員達が各々の船に荷物を下ろしたり積み込んだりしています。

前世の飛行船とは違って気球とかは無く、帆船が空を飛ぶ感じです。

ファンタジーでこんな状況ですけど、ロマンを感じてワクワクしますね。


「どこにつれてかれるのかな?」「大丈夫です、どこに行こうとみんなが一緒ですよ」


不安そうなマリにそう返すと、私に掴まらせておきます。

でも、そんなに抱きつかなくても。

ちょっと苦しいですよ。


毛長牛に牽かれる輸送車は揺れはしますが、そこまで地面の凹凸は拾わないので、手鎖をされた私達も荷物から落ちずに外を眺める事ができます。

ぐるりと柵と言うか格子に囲まれた吹曝しなので嫌でも目に入るのですけれどね。


平地の草原に面した所に大きめの街が見えました。

近付いて行くと、手前には軍隊の拠点の様ですね。

広いだけで仮設で作った様な建物が多く、基地と言うより一時的な駐屯地みたいです。

問題は街でしたよ。


駐屯地の後方には廃墟の塊が続いていたんです。

瓦礫となった街跡ですよ。

動いている人は誰もいません。

もしかして、この浮島の住人は全員居なくなったんでしょうか。

この軍隊が住民をどうしたのか、不安に体が震えていますね。

故郷のラートラム島がどうなったのか・・・。


私達の乗った輸送車を含む部隊は建物には寄らないで山道に入って行きます。


「キャァ」

「ウワッ」

ゆ、揺れが、揺れが酷すぎます!

どれだけの間揺られていたのか判りませんが、漸く止まってくれました。

みんなは床に座り込み荷物に掴まったり、蹲ったりしています。

私だってマリと抱き合って床に横倒しになったままですからね。

強引に引きずり降ろされた私達の前に見えたのは、山に埋もれ一部が崩れかけた大きな遺跡というか、神殿でした。


階段を引き摺られ巨大な扉を潜り、神殿の中に荷物と一緒に連れ込まれた私達の周囲では、兵士以外の技術者や研究者と思われる人達も何人かいました。

神殿は小高い山一杯に拡がっているかと思う程広く、天井も高いです。

外とは違い、中は頑丈で崩れている様な所は無くて、様々な彫刻で飾られている様ですが、引き摺られていてろくに目に入りませんよ。


そうして私達が連れてこられたのは、大きな大きな広間でした。

中央に太い柱が何本も立ちその上に虹色に暗く光る巨石の様な台座が載っています。


酷い揺れの後引摺り回されてぐったりなのは、私もみんなと同じなのですけど、あれはいったい何なのでしょう。

不思議さに目が離せませんね。


柱の根元に集まる兵士や研究者達の前に連れてこられた私達の前には、指揮官と見える派手な軍服の兵士がいました。

こちらを一瞥する目が冷たく、物を見る様な目です。


「フン、ようやく届いたか。これで実験ができる。準備を始めろ!」

ちょっと待て、いくらなんでも


「待って下さい。皆を少し休ませて下さい。疲れて具合を悪くして・・ガハッ」


思わず飛び出して抗議したのだが、手に持つ棒の様な物で床に叩きつけられてしまった。


「生意気な餓鬼が。真ん中に放り込んでやれ」


倒れた床の上で痛みをこらえていると、飛び出そうとしたマリをミルお姉さんが押さえているのが見えた。

そうそう、考え無しは私だけで十分だからね。


幼女相手に手加減無しとは人格を疑うね。

それにしても、実験動物扱いとはやっぱり不穏だったね!











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捕虜にされた理由が判明。

外敵に対し前面に立つセラ。

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