第42話 学生会定期会合

学生自治会の定期会合が始まった。二週間に一度のペースで開かれていて、ミユが学生会の役員に就任してからすでに何度か開催されていた。議題は学内の連絡事項の確認や、困りごとの相談、学園祭の実行委員会からの報告、アイアンレースを含めた高専大会の連絡など多岐にわたる。


いくつかの議題の後で、最後にアイアンレースの話になった。アイアンレースの議題は、数ある議題の中の一つに過ぎないが、時間がかかりそうだったので一番最後に回されることになっていた。

「アイアンレースの進捗はどうですか? いつも通り六車さんからお願いします」

「自転車の方は設計段階ですが、製図できる人がサイクリングサークルにはいないので誰か紹介してくれるとありがたいですね。こっちでも探してみたんですが、なかなか協力してくれる人がいなくて」

「紹介しようにもサイクリングサークルは変人の集まりだから、みんな煙たがってるしなあ」

香西礼が嫌みをいうと、六車環は礼をにらみつけた。実際、サイクリングサークルは変人の集まりという印象があって、近寄りがたいのは間違いなかった。


「そもそも、製図って必須なの?」

真鍋桜は素朴な質問を挟む。

「一人で作るなら、いらないかもしれないけど、パーツが多くて大人数が関わるだろうから設計図がないと共有するのが難しいんだ。一昔前は、うちでも大きな物をつくるプロジェクトがあって製図もしてたんだけど、今は小粒の物しか作ってなかったからできる人がいなくなってるんだよ」


「それは困りましたね。カート部の方は設計はどうされていますか?」

「カート部は製図ができる先輩方を中心にやっています。自転車の製図を手伝える人がいないか声かけをしてみます。でも製作が終わるまでは全員手一杯なので期待はあまりしないで欲しいですが」

「ありがとう。それでも助かるよ」


「メカトロ研はどうですか?」

内山会長が礼に話を振る。

「うちも同じく、ロボコン準備に手一杯なので無理ですね」と、けんもほろろな応答だった。


「分かりました。私の方でも、教えてくれそうな先生に声を掛けて探してみますが、最悪、自前で製図するか準備をしておいてください」

「すみません。ありがとうございます。あ、それと、タンデム自転車も探しています。なにせ一から全部作るのは難しいので、完成形を入手して分析したいので」

「分かりました。それも合わせて訊いてみます」


内山会長は手帳に何かを書き込んだあと、ミユの方を向いた。少し前までは、カートの正担当は小原ということになっていたが、ミユ一人に任せても大丈夫ということで、ミユが正担当になり、小原は正担当を解除され、開会式担当になっていた。


「ではカート部の進捗はどうですか?」

「カート部は、若干の方針の変更はありましたけど、概ね順調です。設計は佳境に入っているので、まもなく加工と組立に入れそうです。それが終われば、あとは調整だけなので自転車の手伝いもできるかと思います」

それを聞いて環は肯いた。

「分かりました」


会長は桜に向き直る。

「ヨットの方はどうですか?」

「ヨットも大丈夫。レースに出場する一年生コンビが頑張って練習してるみたいです」と桜。

「ああ、宮武さんでしたね。私も西讃キャンパスでお見かけしました。最後に開会式の件ですが、私と小原さん、それと真鍋さんも手伝いに参加してくれてそちらも順調に進んでいます。アイアンレースについて、他に何かありますか?」


「あ、そういえば」とミユがふと何かを思い出した。全員の視線が集まる。

「あの、ものすごく些細なことなんですが」

「かまいませんよ」

「岡山にカートの試走に出かけたときに、途中の道の駅で岡山高専のカート部の人たちに会ったんです」

「そういえばいたね」

桜が相づちを打つ。


「はい。それで、その中の一人に、小原さんによろしく伝えるように伝言されたのを今、思い出しました」

「え? うそ」

小原緋は少し取り乱しように見えた。そういえば以前も岡山高専の話になったとき、少し様子が変だったような気がする。それは内山会長も感じ取っているようだった。

「他には何か言ってなかった?」

「うーん。演劇部がどうとか言ってたような気がするけど、もう覚えてないですね。すみません」

「そう。分かった。ありがとう」

小原は伏し目がちだった。この話題はもうやめようという空気を感じ、内山会長が、「他には何かありますか?」と発言したが、特に誰も何も言わなかったので定期会合はお開きになった。


ぞろぞろと学生会室から退室するときに、小原だけは内山会長に話があるからと言われて引き留められていた。話の内容はなんとなく察しが付いていたので、二人を残してみんなそのまま退室して、それぞれの部活に行くことにした。

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