第48話 夜

「そういえば最近、部屋で彗ちゃんをあまり見ないですよね」

ミユは勉強の手を止めて、寮の自室にいた遙に言った。遥は夕食後からずっと寝ていて、今起きたようだ。ベッドの中で大きく伸びをしてから這い出してきた。

「いつもテンテンが寝たあと、日が変わる前くらいに帰ってきてるからね」

「え、そうだったんですか?」

「そうだよ。知らなかったの?」

「カートのことで頭がいっぱいだから、なんか見ないな~くらいにしか思ってなかったです」

「この前、帰ってきたときに訊いたら、遅くまで加工場で自転車の部品作ってるんだって」

「そうだったんですか」

「知らなかったの? 同じクラスなのに?」

「同じクラスだけど、席替えで席が離れてから話す頻度が減ったんですよね。同じ部屋だし、話そうと思えばいつでも話せると思うと、なんかお互いに空気みたいになりますよね」

「まあ、そんなもんか。朝も早く出てるみたいだし、先輩としては、ちゃんと睡眠が取れてるのか心配だなあ」

「彗ちゃんは講義中も居眠りしてる様子ないのに、すごいなあ。遥さんは、麻雀サークルで夜寝てないのに、睡眠時間大丈夫なんですか?」

「私は、ちょこちょこ寝てるから」

「講義中に?」

「む、失礼な。休み時間とか放課後とか隙間時間に寝てるから、講義中はちゃんと起きてますよーだ」

「ははは」

ちょうど部屋のドアが開いて、「ただいまー」と声がした。彗が帰ってきたかと思ったが、舞だった。


「おかえりなさい」とミユ。

「なんだ、舞ちゃんか」

「えー、なんですかその言い方」

「今、テンテンと彗ちゃんの話してたから、絶対に彗ちゃんだと思ったのに」

「はあ、噂をすればなんとやらですか」

「彗ちゃんに会いたいようって、テンテンが言うから」

「そこまでは言ってませんけど」

「でも確かに、最近、彗ちゃん遅いですよね。会いたいなら加工場に様子を見に行ったらいいんじゃないですか?」

「あ、それ面白そう。麻雀まで、まだ時間があるから一度くらい頑張ってるとこ見に行こうか」

「そうですね。ちょうど宿題も終わったので、見に行きたいです。舞さんは?」

「私は、今帰ってきたばかりなのでパスさせてもらうよ」

「分かりました。じゃあ、行きましょうか、遥さん」

「うん。秘蔵のチョコバーを差し入れに持って行こう」


私物入れとして使っているファイルボックスからチョコバーをむずと掴むと、遥は羽織った上着のポケットに入れた。

自室を出て玄関の方へ行くと玄関前で六車環とばったり出会った。

「こんばんは」

「こんばんは。こんな夜遅くに出かけるのか?」

「はい。彗ちゃんの様子を見に行こうと思って」

「差し入れもあるよ」

「彗ちゃん、まだ加工場にいますか?」

「まだ帰ってないのか。分かった。わたしも行く。着替えてくるからちょっと待ってて」

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