第12話 部活紹介

「今期の学生会長の内山です。みなさん、ご入学おめでとうございます」

始業式が終わった午後、部活動やクラブ活動紹介のための学生会を開くということで新入生は体育館に集められた。私服姿の学生自治会会長が壇上に立つ。


「長い挨拶は聞き飽きているでしょうから、手短に今日の集会の説明をします。まず、高専は、中学校や、また一般の高校とも違って、学生の自主性に重きを置いています。これは学年が五年制ということや、成人している学生も多く存在していることと無関係ではありません。

学生自治会は、学生の主体性をはぐくむための自治自主活動を円滑に行うための組織であり、主な活動は、学園祭やクラブ活動を含めた学生生活全般を支援することです。今日のこの集会は、クラブ活動の紹介の為に設けられたものになります。これから公認の部活が一つ一つ紹介されますので、部活動選択の参考にしてください。私からは以上です」

一礼して、会長は降壇した。


「はい。ありがとうございました」

司会進行は、また小原あかねだった。こういう役回りなんだと思う。

「では、部活動の紹介の前に、まず、私から学生会役員について説明させていただきます。先ほど会長からも説明がありましたが、学生会は自治組織なので、学生会の役員は有志によって運営され、役員を随時募集しています。主な活動は、時々、放課後に集まってお茶を飲みながらおしゃべりしたり、お菓子を食べながら会議をしたり、学園祭の運営なんかもしたりしてます。

あんまり忙しくなくて、兼部している人も多いので、ぜひ、学生会室に遊びに来てください。以上、学生会の募集案内でした。これからクラブ活動の紹介になりますが、持ち時間は一団体あたり二分以内でお願いします。では、五十音順で、合気道部からお願いします」


「えー、合気道部です。合気道部では――」

道着を着た学生が前に出て、合気道部から紹介が始まり、演劇部、応援団や合唱部と続いていく。サイクリングサークルの説明では、環先輩が説明していた。競技自転車部がライダースーツを着ていたのと対照的で、サイクリングサークルは全員ラフな私服で、いかにも自転車サークルという感じだ。


三〇近い部活動紹介も終盤に入った。

「続いては、レーシングカート部です。お願いします」

白いレーシングスーツを着用した学生が一人、壇上にあがった。寮の洗濯室で会った池田と呼ばれた学生とは違うようだ。

「レーシングカート部です。普段は、カートの整備をしたりサーキットで走ったりしています。部室は河川敷のサーキットの隣にあるので、興味のある方は見学に来てください」


『だったら、レーシングカート部に見学に来なよ』と、ミユの脳裏に先日の洗濯室でのやり取りがふと浮かんだ。今度の休みに、ヘルメットを取りに家に帰ろうか。

そう考えたら、自然と手に力が入っていた。


「ねえ、ねえ、部活どこにするか決めた?」

ミユと栞と彗の三人で並んで教室に戻る途中で、栞がはしゃいだ様子で、他の二人に尋ねる。

「うーん。自転車系が気になるけど、全然違うことをするのもアリだから迷ってる」と彗。

「私はまだ決められないあ」

心ではレーシングカート部に惹かれているものの、ミユはまだ決めかねていた。 


「栞ちゃんは?」

「合唱か、演劇か、吹奏楽か、それが問題だ」

全体の男女比が二:八という圧倒的に女子が多い高専の中でも比較的男子が多い部活ばかりだった。

「なるほど。栞ちゃんらしい」

「じゃあ、二人とも、一緒に部活見学にいこうよ。友達が来てくれた方が私も安心できるし」

「うん。いいよ」

「私も、特にこれって決めたのはないから、見て回ろうか」


それからの放課後、三人は部活動の見学に費やした。栞が主導して栞の気になっている部活を見学した。ミユと彗は決めていないとは言いながらも何となく心は決まっていたので、栞に付き合う形になった。


栞に付き合ってからの一週間というもの、放課後に数多の部活見学を済ませ、それでもまだ見学していない部活動は多く残っていたが、栞も十分満足したようで、部活動見学はいったん区切りをつけることになった。


その日、部活動見学を終えたミユと彗は、栞と分かれて二人で寮の自室に戻った。

「あ、おかえり」

部屋で勉強していた舞が手を止めて、二人を見た。

「ただいま。この時間に舞先輩が部屋にいるなんて珍しいですね」

「明日は土曜日だからね。今日のうちに課題を済ませておけば、明日一日有効に使えると思って。ところで、お二方、いろいろと部活を見て回ってるみたいだね。ちょっとした噂になってるよ」

「えー、そうなんですか? 恥ずかしいなあ」

「まあ、若いうちはいろいろ経験するのも良いことだよ」

「若いって、舞さんとは一つしか変わらないじゃないですか」


「それもそうか。でも二人はまだ、メカトロ研見に来てないよね? 明日、時間があるなら見学に来ない?」

「すみません。私は、明日は忘れ物を取りに実家に帰るつもりです。いつまでも彗ちゃんに充電器借りっぱなしじゃ悪いし」

「分かった。彗ちゃんは?」

「私も、明日はちょっと用があって」

「そった。気にしないで。気が向いたらメカトロ研に来てね」

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