第3話 ~逃~

僕は野良だ


好きに出歩く

好きに独りでいる


そんな僕にも友達はいたよ

茶トラの可愛い飼い猫だった


ガラス越しに話しかけてくるから

僕はいつも話し相手になっていた


〈最近ご主人様が冷たいの〉

茶トラは嘆いていた

どうしてかと言うと

新入り猫が増えたから


茶トラは辛そうだった


〈いつかご主人様は

私を見てくれる〉


そう思って我慢しても

新入りには勝てなかった


茶トラはご主人様から逃げた

野良になる道を選んだ

そして僕に言った

〈ねえ、君と同じだね〉


違う

僕は違う

僕は

僕はずっと野良だ


茶トラは姿を消した

僕に何も言わず

あとも残さず


それでも、夢で僕に言う


〈君も野良なのに〉

そうだよ、僕は野良だ


〈捨てられたんでしょ?〉

違う、僕が離れたんだ


〈逃げたんでしょ?〉

違う、遠くから見守ってる


〈私と同じだよね〉

違う、違う、違う


お前と一緒にするなぁ!!!!!


僕は逃げてない!

ずっとずっと!

主様の元に居た!


八つ当たりされても

冷たくされても

僕を無視して

人間達と仲良くしていても!


僕は逃げなかった!


それでも!


僕は邪魔になると思ったから!


僕は遠くに行ったんだ!


辛くて逃げ出したお前とは違う!


僕は僕は僕は!


主様が好きなんだ!!!!!



僕は黒猫だ


遠くから見ればただの黒いもの

すぐには分からないでしょ


たまに持ってくる幸福で

主様が少しだけ喜ぶ


それだけで僕は

とても幸せなんだ

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