狭間
全日本選手権。
日本でフィギュアスケートをしている者なら誰もが目指すこの場所に、選ばれた者が次々と入っていく。
この場に何度も立った者、まだ回数は少ないが、勝手が分かってきた者、初めてで落ち着かない者と反応も様々だ。
今日行われるのは開会式であり、皆指定されたブレザーを上に着てホールへ集まっていた。
出場選手の一人である山下めぐりが入ってくる。
高校二年生、シニア二年目の彼女はグランプリシリーズは昨年とは違いファイナル進出は逃してしまったもののそれぞれで良成績を残していた。
そんな彼女は会場を歩きながらある人物を見つけた。
「お、ジュニア二強や〜ん」
と言いながらめぐりは誠也と柚樹に近付いたかと思うと二人を同時に担ぎあげた。
「は?おい、離せ!なぁ!」
と柚樹は暴れるが、めぐりはびくともしない。
誠也の方は諦めたのかされるがままだった。
「力強いね…」
「野辺山の時、先生担いでた……」
と、その様子を見て同じくジュニア2強の聖子と朝陽は引いていた。
「え?抱っこしてほしい?」
「絶対離してもらえへんからいらん」
「まず俺を下ろせよ!」
とワイワイやっている中
「ようメスゴリラ、相変わらずだな」
と近付いてきたのは、三浦紀之。
バンクーバーオリンピックに出場し、今年のグランプリファイナルも出場した選手だ。
メスゴリラと呼ばれためぐりはニヤリとした笑みを浮かべ、担いでいたジュニア二人を下ろしたかと思うと今度は躊躇なく紀之を姫抱きする。
「おい!!誰が担げつった!」
「絡みに来たってことはつまりそういうことかなって」
「ふざけんなよマジで!」
と紀之は暴れるが、めぐりはやはりびくともしない。
何はともあれやっと下ろしてもらえたジュニア男子二人は溜息をつきながら、席に着いた。
そんなふたりの横に
「お、元気?ファイナル以来やな!」
と笑顔の足立理一、そしてその隣に神崎勇が座った。
この二人もまた、バンクーバーオリンピックに今年のグランプリファイナルにと日本の男子スケーターを第一線で引っ張っている選手達だ。
憧れの選手に話しかけられると、やはり照れが勝つのか誠也と柚樹は少しぎこちなくなった。
そんな様子だとまたしても可愛いと言われてしまうのだが。
こうして選手達が集まり、開会式が始まった。
そして滑走順の抽選も始まっていくのだった。
場所は変わって黄昏フィギュアスケートセンター。
休憩室のテレビでは全日本選手権女子のショートプログラムが放映されているが、正直見ているクラブ員はいない。
トップの特に見応えがあるとされる選手が出る時間にリリィはバレエに向かっている。
見たいという気持ちはあるが、来年そのテレビの向こうに行くために今は見ていられないという思いもある。
「結果明日教えて!」
「ん、分かった」
とまだリンクに残る銀河やまちにそう伝えて出る。
とはいえ、今のリリィには誰が何位なんてものはそこまで興味が無かった。
関東選手権のシニアで滑って優勝したの人は一体何位になるのかな、フリーに進めるのかななど一瞬考えてみたが、やはりどうでもよくなった。
施設を出た瞬間、スケートリンクとはまた違う冷たい空気が肺を満たす。
なんだかスッキリとする気がした。
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