比較対象
11月も後半に差し掛かり、全日本ジュニア選手権が終了した。
女子の優勝者は松阪朝陽、15歳。
五十嵐誠也と同じ霧雨フィギュアスケートクラブに所属していて、ロシア民謡のメドレーをフリーに滑った。
昨年怪我で一シーズン棒に振っていたとは思えないほどの出来栄えで二位と大きく差をつけて優勝した。
2位となったのは…
「おめでとう聖子ちゃん!」
「安村先生…私、全日本の結果次第で世界ジュニアに行けるのかなぁ?」
と優勝を逃し悔しげな表情を隠さない聖子。
「まあまあ、とにかくインタビュー頑張っておいで。それから話そう」
と聖子を報道陣の前へ送り出す。
聖子はグランプリファイナルの切符を獲得しているため、全日本で優勝しなくとも世界ジュニアへの出場はまず心配ないだろうと言われている。
一方で朝陽はシーズン最初の試合ではまだそこまで実力を発揮しておらず、ジュニアグランプリファイナルの切符は逃している。
今回の試合で本格的に調子を戻したというところだろう。
過去の戦績も話題性も今は聖子の方が朝陽を上回っているのだ。
そのため朝陽は、優勝したにもかかわらず報道陣にはほとんど相手にされていない。
しかし、当の朝陽にはそこまで問題ではなかったようだ。
「想定より話しかけられんくて気ぃ楽やわ」
「そうやな、俺も気ぃ楽やわ……」
とメダルを片付けながらコーチである田畑健也と会話する朝陽。
昨年から誠也がマスコミに誇張なくクソが付く程に囲まれたのを間近で見ていた田畑は、今回のマスコミにあまり相手にされない朝陽に強く安堵していた。
「それでも体感去年よりマシやけどな」
元々そこまで話題にならなかったジュニアの試合だが、聖子に誠也と話題にしかならない選手が二人もいるおかげで例年よりカメラの数が多いと話す選手もいるくらいだ。
「松坂朝陽さんのことはどう思いますか?次は勝てると思いますか?」
という質問に聖子は目を伏せる。
「……頑張ります…」
ただそう答えた。
「聖子ちゃんは脅威か?」
田畑は朝陽にそう問う。
「別に。私が頑張ってれば誰かを追い抜くし、向こうが頑張れば私を追い抜く。それは誰であっても同じ」
「……安心したわ、相変わらずで」
「今回の試合に出てないようなノービスに惨敗する可能性もあるしな」
そう言う朝陽の表情はどこか穏やかだった。
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