変わり変わらず
某会場内。
バンケットも終わり、それぞれが解散している頃。
「ダンスバトル最高だった〜!」
「アリョーナよく誠也引っ張ったわね!」
「そりゃあ優勝者同士で踊らないと」
と女子の優勝者であるロシアのアリョーナ・カタリニコワと他の女子達が話しながら会場を後にしていく。
バンケットのある段階で始まったダンスバトルで、カイルが音楽に合わせて肩周りや腰を不気味に動かしていたり、それに何故か巻き込まれたギルバートが逆立ちをして歩いたら、足をカイルに掴まれてそのまま暫く社交ダンスのようなものをやらされていた。
しばらくして
「もう離せ吐きそう」
と言ってギルバートは退場して行った。
直後シングルで表彰台に上がったメンツが前に出された。
誠也は
「俺に音楽センスなんてないんや、即興ダンスなんて踊れへん!」
と騒ぎながら前に出されたが、なんだかんだ基礎はしっかりとしたダンスを披露していた。
そんな楽しい時間も終わって、今はホテルの共有スペースのバルコニーに数人息抜きと称して集まっていた。
「...さっむ...」
「寒いな...日本より寒いで......」
「無理中入る」
と震えながら中に入った時だった。
「なあ柚樹……今回ありがとうな……」
唐突に言われ、柚樹は驚く。
「久しぶりに同い年の選手とこう…なんかあんまり触れたらあかん人みたいに扱われんで話したりできて…ほんまに楽しかった」
そう話す誠也の表情は、柚樹もよく知る過去の大人しいけれどノリが良くて楽しげな人だった時のものだった。
触れたらいけない人のように扱われていた。
彼を取り巻く環境があまりにもセンシティブすぎて、彼に対しどう接したらいいか分からないと言う人が多かったのだろう。
だから全日本の時は周りのスケーターで彼に積極的に話しかける人はほぼいなかった。
グランプリファイナルの時は海外のシニア選手に話しかける人はいたが、やはり誠也としては同じ言葉を話す人同士で話したかったのだろう。
彼を取り囲む環境は大きく変わったし、現在進行形でその変化にひどく悩まされてはいるが誠也の性格そのものは変わってなどいなかった。
それだけでどういうわけか安心してしまう。
「ところでマジで標準語しか喋らんくなったな。去年までバリバリ大分弁やったやん」
「……うちのクラブのアホ達が真似しやがるから…...」
誠也も誠也で柚樹の変化に気付いていた。確かに昨年まではどこの地域の人相手でもインタビュー以外は方言を一切隠していなかった。
「...まあ、多分あのままだとインタビューの時も方言出しちゃってたからこれでいいんだよ」
「関西人が標準語話してるつもりでイントネーション関西弁になるみたいな感じか」
「そうそう」
と笑い合いながらそれぞれの部屋へと戻る。
それ以降もうこの場所で会うことは無かった。
でもまた来シーズン会える。
お互いに強くなってまた会うのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます