12話 思いをはせて

 交差都市から帰った夜。


 その晩ご飯中に、私は家族である二人に報告したッス。


「じつは、子どもができたッス」


「は!?」


「ええ?」


 私の言葉に対し、呆気にとられる母さんと驚く映二。


 まあ、それはそうッスよね。


「姉ちゃん、マジか!」


「マジ」


「あ、相手は誰なの?」


都恵子トエコさん。神様ッス」


「神さま? え、その名まえからすると女みたいだけど……」


「ええ、女の神様ッスよ。そんで、子どもは都恵子さんが生んでいるッス」


 そう言って私はスマホ画面を見せたッス。


「彩子って言うッス」


「まあ、目が彩そっくり」


「ホントだ」


「そして、となりにいるのが、お相手の神様ね」


「なんか二人とも幼いから姉妹に見えるけど、母娘なんだ」


 母さんと映二は画面を見ながら感心したように頷いたッス。


 そして私は日中に交差都市であったこと、彩子がどういう経緯で生まれたのかを話したッス。


「なるほど。まあ、一種の人助け、というか神助けをしたのね」


「だけど、びっくりしたよ。いきなり子どもができたなんて」


「はは、それが狙いッス」


 軽く笑いながらスマホを手元に戻したッス。


「そして、私はお祖母ちゃんになったのね」


「俺は高二にして叔父さんだ。全然、実感がないけど」


 右手をほっぺにあてる母さんと、組んだ両手を頭におく映二。


 いや、当事者である私ですら実感がないッスからね。


 母さんと映二はよけいにそうでしょう。


 それに私は、能力が覚醒したことによって情動が小さくなったッスからね。


 以前に比べて素っ気ないんで、それもあると思うッス。


 でも。


 帰るとき、彩子の表情は少し寂しそうだったッスね……。


「彩、いつかこの子に会えないかしらね」


「あ、そうそう。会ってみたい」


 手を離して、前のめりに言う母さんと映二。


「いいッスよ。あとで都恵子さんに伝えておくッス」


「まあ、楽しみだわ」


「なにかプレゼントを持っていった方がいいのかな」


 はは。


 二人で盛り上がっているッスね。


 その様子を見てると私も嬉しくなるッス。





 ──風。


 夜も深まり、私は屋上にあがって一人、月をながめていたッス。


「……」


「お母様や弟さん、すんごい楽しみしてたわね」


「ジュマ」


 華彩カーヤの言葉にジュマも賛同していったッス。


「彩自身はどうなの? 嬉しくないの?」


「いや、本当、全然分かんないッスよ」


「まあ、そばにいるわけじゃないし、育てることもないんだからね。無理ないんじゃない」


「たしかに、そうかもしれないッスが、それでいいのかな、とも思うッス」


「ママになったことを?」


「そうッス」


「ふふ、彩は真面目ね。けど、ずっとそばにいるだけが親じゃない。それに、交差都市とのパスはあるんだから、会おうと思えばいつでも会える。慌てることはないわ」


「そうッスね……」


「誰でも最初から戦士じゃない。戦士になっていく。それと同じで、ママにもなっていくんだと思うわ」


「……」


 なっていく、ッスか。


 タタカイノキオクも、最初のうちは技に振り回されていたッスもんね。


 自分で身体を鍛えて、技に耐えられるようになったッスから、それと感覚が近いかもしれないッス。


「ひとまず、いつもどおりッスかね。次の依頼があるまで英気を養っておくッス」


「うん、それでいいと思うわ」


「ジュマ」


 私は私で、私にしかできない仕事ことをやる。


 今はそれしかないッスね。

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カミネラ 一陽吉 @ninomae_youkich

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