11話 都恵子と彩子と彩

「あのお二人に戦いをめていただいた方がいいんじゃないッスかね」


「まあ、それが一番ですけど……」


 神様の奈樹ナジュさんと、神様に匹敵する力を持つカイエスさんの攻防は激しくなっているみたいッス。


 流れた力は砲弾級なんで、いくら建物が壊れても問題ないと言ったって、危ないのに変わりはないッスよ。


「私も回復したんで、和歌子さんを解放したことを告げて離脱すれば、争う理由がなくなるッス」


「たしかにそうですが、せめてもの成果で彩様を狙う可能性があります。あの二人の前に出るのはとても危険です。もっとも、わたくしに力があれば、制限をかけて排出させることもできるはずなのですが……」


 彩子がいるんで、交差都市としての存在は確保されたし、都恵子さんはその神様なんで、本来はフィルターを通すみたいに害となる存在を排除したりできるんでしょうが、生まれたばかりなんでそこまでの力がない。


 私も、あの二人が戦うのであれば、万全の状態で、ちょっとの間だけ相手にできるくらいッスからね。


 それに、さっき魔人化して大暴れしたッスから、現実世界へ帰ったり、ちょっとの戦闘はできても、魔力量や疲労の度合いから考えて、神様クラスの相手をしないのが賢明ッス。


「母様、ママ様、ようは私たち以外の者を空間から出せばいいの?」


 彩子が顔を交互に見ながら言ったッス。


「ええ、そうよ。だけど、みんな強いわ」


 同じ目線で優しく教えてあげる都恵子さん。


 すると彩子は都恵子さんと私の手を握ったッス。


「それじゃあ、力ではない方法でやればいいんだよね?」


 !


 私たちに問いかけるようにして彩子が言うと、その手から神気が通ってきたッス。


 それは都恵子さんも同じようッスね。


 こそばゆいような、何とも言えない感覚ッスが、これは同調ッス。


 私と都恵子さん、二人の因子をもつ彩子はそれぞれの能力を、使用できるってわけッスね。


「なるほど、これならいけるかもしれない」


 呟くように言う都恵子さんも理解したようッス。


「そんじゃ、やってみるッスか」


「ええ。まず指揮者二人に勧告をして、それに応じなかった場合は、彩子、お願いね」


「はい」


 方針を伝えると、彩子は元気よく答えたッス。


「では、いきます」


 都恵子さんが言うと、一瞬、光って切り替わり、視界には外の風景が広がっていたッス。


 これは三人そろって意識だけをとばしたんッスね。


 そんで、身体は幻影。


 仮に攻撃されても問題ないッス。


「おやめください!」


 カイエスさん、奈樹さんに向かって大きな声を出す都恵子さん。


 お二人ともそれに気づいてこちらを向いたッス。


 距離はだいたい十メートルくらいッスかね。


 ちょっと離れているッスが、近すぎてもダメなんで、これくらいがいいかもしれないッス。


「わたくしは都恵子。この交差都市の神です。お二人の探している女子はすでにいません。戦いをやめ、すみやかにお帰りください」


 そう言うと都恵子さん、彩子と手をつないでいない右手を掲げると、その先の空間に映像を映し出したッス。


 これはさっき私が空中のすれ違いざまに和歌子さんを転移させたものッスね。


 どうやら神として空間の記憶を表したもののようッス。


「そうか」


「もしやとは思っていたからね」


 おや、お二人ともあまり驚かないッスね。


 和歌子さんが転移していた可能性を考えていたみたいッス。


「そうなればあとはけじめの問題だ。こっちの威を示さなきゃならねえ」


「こっちのセリフだね。彼女に目をつけたのは私が最初なんだからな」


 やばい。


 第二ラウンドが始まりそうッス。


「おやめください! ここはもはやわたくしの都市です。好き勝手されては困ります!」


 都恵子さん、ガツンと言ってやったッスね。


 容姿に関係なく毅然とした態度は迫力があるッス。


「ああ、そうかよ。だったら俺は引っ込んでもいいぜ。そのツインテールの女を連れてな!」


 カイエスさん、私に飛び込んできたッス。


「だめ!」


 彩子の声と同時にカイエスさんが消えたッス。


 それはまるで見えないドアを通ったみたいに。


「なに……」


 さすがに奈樹さんも驚いているッスね。


 これは彩子が都市の神として空間を制御しつつ、私から鍵神かぎしんの力を借りて現実世界に転送したもの。


 こうすれば力の差うんぬんではなく、この交差都市の空間から排除できるッス。


「争うつもりなら、あなたも強制排除します!」


 奈樹さんに向き直り、あらためて警告する都恵子さん。


「……」


 じっと見つめる奈樹さん。


 何を考えているかちょっと分からないッスね。


「まあいい。私は兵器と一緒に引き上げるとしよう。いずれまた会うかもな」


 そう言うと奈樹さん、ぱっと消えたッスね。


 下を見ると、機製人きせいじんさんも同じく消えたッスが──。


 バササササササササササ──────────!


 今度は四方から翼魔よくまさんたちがやってきたッス!


「むん!」


 独特のかけ声とともに、彩子が力を込めると、円が広がるかんじで神気が発せられ、それにふれた翼魔さんは次々と強制転移で消えていったッス。


 ただ、その範囲も限界はあるみたいッス。


 だいたい、半径百メートルくらい。


 それを越えたところにいる翼魔さんはいなんで、とりあえずはいいッスが、遠くにはまだ翼魔さんがいるッス。


 その翼魔さんはこっちのことに気づいていないようなんで、いまはいいッスが、時間の問題ッスね。


「母様、ママ様、すみません。これ以上は……」


 息を荒くし、疲れた様子で言う彩子。


 生まれてすぐにこれだけの力を使ったッスもん。


 無理ないッス。


「ひとまず、この完全排除した部分だけを残し、あとは斬り捨てましょう。わたくしの力が魔増せば、再び拡張は可能です」


「そうッスか。まあ、正直に言っていまは戦えないッスからね。お任せするッス」


 都恵子さんの提案に対して私から言えるのはこんなもんッスね。


「それでは、実行します」


 空を見上げ、都恵子さんが力を込めると、都市の一ブロックくらいを残して後の部分は白いができたッス。


 例えるなら街の一部が巨大な箱の中に入ったかんじ。


 空さえもスパッと区切られているッス。


「かなり狭くなりましたが、これで安心です」


 ほっとした表示になる都恵子さん。


「よかった」


 彩子も安堵の笑みを浮かべたッス。


 ……。


 あ。


 そう言えば彩子の笑顔、初めてみたッスね。

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