10話 彩子

「子ども、ッスか」


「はい……」


 顔を赤らめ、もじもじが止まらない都恵子トエコさん。


 なんでそうしているか分かったッスが、いろいろ疑問があるッス。


「私、女ッスよ?」


 まずはそれ。


 都恵子さん「子ども生ませてくださいと」とおっしゃっているんで、ご自分で生むつもりのようッスが、女どうしなんッスよね。


「それは大丈夫です。彩様の魔力と少しばかりの血をいただければ、わたくしの神気と合わせて新たに人格をもった神が生まれます。その子が住民となれば、空間は狭くとも交差する都市を維持することができます」


「なるほど」


 お互いの因子があれば子どもはできる。


 そういうことなんッスね。


 まあ、都恵子さんは神様なんで、通常の交配なんかでなくても子を成せるのは理解できるッス。


 そもそも、新しい物ができただけで新しい神様が生まれるんで、男女の必要性がないッスもんね。


 そしてその子を住民にすれば、神様の親子で棲むことができる。


「生まれた子は私が責任を持って育てますし、彩様にご迷惑はおかけしませんからご安心ください」


 右手をぎゅっと握って言う都恵子さん。


 力強く決意を表しているッス。


「どういうことかは分かったッスが、それだけでいいんッスか?」


「はい、それだけです」


「……」


「あの……、どうでしょう……」


「反対する理由がないんで、いいッスよ」


「わあ、ありがとうございます!」


 満面の笑みで喜ぶ都恵子さん。


 たしかに、言ったとおりなんでいいんッスが、正直、複雑ッス。


「いま、わたくしの力で時間をゆるやかにしていますが、それでも限界があります。早速、お願いします」


 あ、時間を遅くしてたんッスね。


 たとえば一分を十分みたいなかんじで。


 あちらは私を探して周囲に展開しているでしょうから、距離をとっておいたとはいえ、移動しなければやがては見つかってしまうッス。


「どうすればいいッスか?」


「彩様、右手を」


「こうッスか」


 私は言われたように右手を差し出すと、都恵子さんも右手を出して触れたッス。


「うっ……」


「んっ……」


 瞬間、身体にビッと電気がはしるようなこそばゆい感覚があって、思わず声を出したッス。


 同時に、私から少しの魔力と血が都恵子さんに流れたのを感じたんで、皮膚を傷つけることなく送られたみたいッスね。


 そんで、都恵子さんは右手を戻すと、お腹の辺りからサッカーボールくらいの大きさをしたピンクの光球が現れたッス。


 その光球はギューッと縮んで、ソフトボールくらいになると、ポンッと音が聞こえてきそうな感じで弾けたッス。


「生まれました……」


 ふう、と大きな息をはく都恵子さん。


 そこには二歳くらいの女の子が座っていたッス。


 鈍く光ってはいるッスが、金髪ツインテに緑の瞳をしているんで、そのへんは私の影響かなって思うッスが、装束や肌の色、顔だちは都恵子さんによるところが大きいッスね。


 この子が私と都恵子さんとの間の子。


「母様……」


 都恵子さんを向いて言うその子。


 母娘ッスから、その呼び方はあってるッスね。


 姉妹みたいに見えるッスけど。


「ママ様……」


 !


 あ、そうッスよね。


 こっちを向いて言われるとドキッとするッスが、つまりはそう。


 私もママってことッスもんね。


「さて、この子の名まえなんですが、彩子あやこといのはいかがでしょう」


「彩子、ッスか」


「はい。彩様の子であり、都恵子わたくしの子ですから分かりやすいかと」


 まあ、名まえのつづり的に、まんまってかんじなんで分かりやすいのは確かッスね。


「いいんじゃないッスか」


「ありがとうございます!」


 喜んで言う都恵子さん。


「あなたの名まえは、彩子よ」


「彩子……」


 都恵子さんが微笑んで言うと、彩子の全身が一瞬、光ったッス。


 承認ってことなんッスかね。


「これで、この都市を維持することができます。あらためて、ありがとうございます!」


「いや、別に大したことしてないッスよ」


 深く頭を下げて都恵子さんが言うんで、思わず手の平を振って答えたッス。


「──!?」


 ド──────────ン!


 いきなり衝撃がきて、ビルの中が揺さぶられたッス。


 まるで、砲弾が直撃したようなかんじ。


 天井からパラパラとコンクリートの破片が落ちてきたッスよ。


「どうやら、指揮者どうし戦闘をはじめたようです」


 空間を感知して、都恵子さんが言ったッス。


「じゃあ、他の翼魔さんや機製人さんたちも戦闘を始めてるッスか?」


「いえ、そちらは彩様などの探索に向かっていますね。それぞれ、こちらへも向かっています」


 どうやら、捕まえられないのはお前らが邪魔するからだ、みたいなかんじで、一対一タイマンが始まったたしいッス。


 神様とそれに匹敵する二人の戦いとなればとんでもないでしょう。


 それに、私を追ってきてるんで、さっさと現実世界へ帰った方がいいんでしょうが──。


「お二人の戦いをめさせないと、この交差都市は壊れるんじゃないッスか?」


「ええ。でもそれは建物だけです。狭くなる可能性もありますが、空間そのものは維持できます」


 ド──────────ン!


 今度は道路を挟んだ向こう側のビルが被弾したみたいッス。


 これは、お二人に退場してもらわないとまずいんじゃないッスかね。


 

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