8話 再戦開始

 ピク。


 ピク、ピク、ピク。


 リーダーさんの翼魔よくまさんから始まって、それぞれの翼魔さんが反応したッスね。


 どうやら気持ちを誘導されたっぽいッス。


「みんな、侵入者よ」


「ぶっ殺す」


かたきをとるよ」


「俺の旋律で後悔させてやるぜ」


 おっと、恐いッスね。


 そんでみなさん、またクロスボウを片手に、戦闘モードに切り替わったみたいッス。


 ダメージのないリーダーさんと家出さんはちょっと飛んで上の階を見回し、ダメージのある体育さんとギタリストさんは床に降りて見回しているッス。


 そんじゃ、第二ラウンド開始ッスよ。


 パンッ!


「あ、あそこだ」


「え?」


「ヤロー!」


「ショット、ユー!」


 ウェアを着たままの体育さんが八彩ヤーヤを見つけると、一斉に注目。


 クロスボウの引き金が引かれ、魔力でできた矢が次々に飛んでいくッス。


 だけど──。


「な?」


「矢が……」


「弱くなった」


「ワット?」


 追尾の矢が追いかけるはずだったんでしょうが、その矢は飛んでいくほどに威力が減衰し、三階の手すりあたりまでくる頃には消えてしまうッス。


「なんだ、これは……」


 呟く体育さん。


 空中にばら撒かれた、銀色の花びらみたいなのに気づいたッスね。


 さっき八彩が投げたそれは、言ってみれば魔法版のチャフ。


 花びらが舞っている三分ほどの間、放出系の魔法は半減したり、消失したりするッス。


「こ、この……」


「ふざけやがって!」


「くっ」


「デム!」


 なんかお怒りッスね。


 こっちから見えないッスが、八彩、あっかんべーっでもして挑発したみたいッス。


 すると、一階の二人が威力を強めにした矢を放って、リーダーさんと家出さんがクロスボウから剣に変えて、八彩に飛んでいったッス。


 見事な連携ッスね。


 いいッスよ、そのまま八彩に集中しててほしいッス。


 私もいま行くッスから。


「ふうう……」


 右手に魔力と気力を集め、それぞれ三個の球形にする。


 そんでそれを弾丸にして、窓に投げつけるッス。


 ガッシャ─────────────────ン。


 タタカイノキオクからの方法で、窓ガラスと二種の結界を同時に破り、私は中へ跳び込んだッス。


「!」「!」「!」「!」


 大理石の床に向かって、前回り受け身をしてからの、縮地しゅくち


 技法で十五メートルほどの距離を一気に縮め、体育さんの懐に入ってたッス。


「!?」


 驚く顔を見ることなく私は左手で体育さんを抱き寄せ、右手にあるスピールの銃口をお腹に押し当てたッス。


 ドン、ドン、ドン。


 三発分の金聖魔法きんせいまほうが発動して、私たちは金色の炎に包まれたッス。


 放出しないゼロ距離発動なんで減衰することはないし、人には無害なんで痛みや熱さを感じることはなく、翼魔さんだけが焼け落ちていくッス。


「シット!」


鎖彩サーヤ


「し、しばる……」


 そばにいたギタリストさんがギターで殴りかかってきたのを、ツインテからの人格である鎖彩が、文字どおり鎖になって身体からだに巻きつき拘束したッス。


「!……」


 翼魔さんが完全に消滅して金色の炎が消えると、体育さん、気を失って脱力したッスね。


 私はそっと離れ、スピールのシリンダーを回転。


 倒れる前に魔法を切り替えたスピールの銃口を当てて発動させると、身体の真ん中から吸い込まれるようにして転移。


 安全な場所へ送ったッス。


 で、お待たせッス。


「も、もどる……」


 鎖彩が拘束を解いてサイドテールに戻っている間に、私は再びスピールを金聖魔法にして、銃口をギタリストさんの胸に押し当て引き金を引く。


 ドン、ドン、ドン。


 体育さんと同じように金色の炎がギタリストさんを包んで、翼魔さんを焼いていくッス。


「……♡」


 一瞬、うっとりとしたように見えたのは気のせいッスかね。


 そんで炎が消えたら、転移魔法を発動させて送る……。


 OK。


 こんな風に魔法を切り替えられるのは、いま持っているスピールが、コルトパイソン357マグナムの二・五インチバレルを改造したもんだからッス。


 回転式リボルバーなんでシリンダーに効果筒こうかとうっていう呪文が刻まれた空薬莢みたいなもんを装填して引き金を引けば、簡単に魔法が使えるッス。


 そんなもんだから、パイソンの場合、最大で六種類の魔法が撃ち分けられるッス。


「ああ、チクショウ!」


 体育さんとギタリストさんが消えたんで、家出さん、こちらを見ながら悪態をついているッスね。


「……」


 リーダーさんは黙して語らず、怒りのこもった剣を八彩に降っているッス。


「お、と、と……」


 右ツインテ分だけの力ってこともあって、防戦一方の八彩。


 このままだと倒されるッス。


「戻ってくるッスよ」


「了解っす」


 呼びかけに反応して、八彩は一瞬、光って消え、私のツインテに戻ったッス。


「!?」「!」


 敵が突然消えたんで、お二人はわけが分からなくなっているッスね。


 ピク。


 ピク。


 すると翼魔さんが動いて、何をすればいいか提案というかたちの命令をしたようッス。


「ヤロー、真咲まさき伊織いおりを帰しやがれ!」


「許さない!」


 剣を振り上げ、私に向かってくる家出さんとリーダーさん。


 私は家出さんを見つめ、スピールの銃口を下に向けたまま引き金を引いたッス。


 ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ。


「は……」


夕夏ゆうか!?」


 発火したように家出さんの身体から金色の炎が噴き出してそのまま全身を包んだッス。


 家出さんは盗聴用に私の髪を仕込んでたッスからね。


 それを目印にした魔法の転移発動ッス。


 翼魔さんが焼滅しょうめつして力を失い、気を失って墜落する家出さん。


 チャフの効果は切れているんで、後はそれを狙ってスピールを向け、引き金を引く。


 専用の転移魔法が発動して家出さんを安全な場所へ送ったッス。

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