7話 作戦開始

「きれいな夜空ッスね」


「本当」


「ジュマ」


 私の言葉に、華彩カーヤとジュマが答えたッス。


 見上げれば雲一つなく、宝石を散りばめたような夜空が展開されているッス。


 閉ざされた空間の中ッスが、朝昼夜のサイクルは再現されているんッスよね。


 だから、いま私が姿勢を低くして歩いている庭園も真っ暗。


 あかりをつける設備はあるんッスが、ともされてないッス。


 この様子だと必要に応じてライトアップされるってことじゃないッスかね。


 まあ、私は魔導具のロックグラスがあるんで、夜目には困らないッス。


 はた目から見れば暗いのにサングラスで見えるの? てかんじでしょうけど。


「現実をリンクしてるっぽいから、夜の九時でいいと思うけど、あの子たち、もう寝てるのよね」


翼魔よくまさんに誘導されて、テレビやネットがなくても退屈を感じないみたいッスからね。ある意味、健康的ッス」


「ジュマ」


 そんでいま、その寝込みを襲うべく宮殿へ向かっているッス。


 家出さんに仕掛けた髪の毛の盗聴によれば、予想どおり、五人は侵入者の侵入を防ぎながら迎えうつことにしたみたいッスからね。


 宮殿に結界を張って、全員一緒にお嬢様を守るかたちでお休みになられるようなんで、個別に探すことがないのはいいッス。


 読書さんからの情報では、一人一人お部屋があって、専用のトイレやお風呂もあるらしいッスから、探すことになったら大変だなと思っていたッス。


 とはいえ、警戒しているわけッスから、不用意に行ったところで返り討ちにされるッス。


 だから夜になるのを待って行動することにしたッスが、状況としてはかなり好都合になっているッス。


「──着いたッスよ」


 窓から中の灯りが漏れているッスが、普通に明るいッスね。


 それにカーテンとかもしていないんで、中は丸見え状態。


 さすがに窓ガラスははめ込まれていて、縦横《たてよこ》に木製の骨組みがあるッスが、開けることができない固定のものになっているッス。


「あの子たち、寝ているのよね?」


「そのはずッス」


 華彩でなくても、あんまり明るいんで、これはちょっと疑いたくなるッス。


 覗いて確認したいところなんッスが、まずは結界の方を確認ッス。


 私は宮殿の壁に右手をかざし、覚醒した能力である魔女の素養で、どんな結界が張られているか解析してみるッス。


 ……。


「どう?」


「これは単純に、対物対魔法の結界ッスね。見えない壁ってだけで、接触や侵入を感知する機能はないみたいッス」


「そう。だったら、ちょっと中を見ましょう」


「了解ッス」


 私は壁に背中をつけ、窓際に寄ると、華彩がツインテを伸ばして中を覗いたッス。


「全員、建物の真ん中らへんにいるわね。ダメージの大きいお嬢様はベッドで寝ているけど、他の四人は近くの空中に浮いて寝てるわ」


「ッスね」


 その光景は私の頭の中でも見えてるんで分かるッスが、確かにお嬢様は毛布をかけずに、装飾された木製のベッドで横になっていて、四人は両膝を抱えて身体の半分くらいを翼に包まれながら目を閉じているッス。


 それってなんか疲れがとれなさそうな体勢ッスけど、これも翼魔よくまさんの仕業ッスかね。


「見てのとおり、眠っているで良さそうね。明るいけど」


「これはたぶん、侵入者も姿が見えるんで、気づくんじゃないかと侵入者にストレスを与えるためッスね。それに、ターゲットが見えているからといって、ここで魔法を放っても結界がはばむでしょうし、その刺激によってやって来たのがばれてしまうッスからね。一種、罠の効果もあるってわけッス」


「なるほど」


 だからといって諦めるつもりはないし、結界が張られたのは知っていたんで、対策を考えていたッスよ。


八彩ヤーヤ


「はいっす」


 呼びかけに答えて、ツインテからの分身である八彩が現れたッス。


 それで私は左のサイドテールになったッスが、この分を使えばあと一人分、ツインテの人格を呼び出して能力が使えるッス。


 まあ、左右で使える力を半分ずつ分けるかたちになるッスけどね。


「それじゃ作戦どおり、頼むッス」


「了解っす」


「ジュマ!」


 ジュマが返事をすると、八彩の姿は消えて、壁と結界を挟んだ宮殿の中に現れたッス。


 瞬間移動みたいッスが、これはジュマの空間倉庫を利用したもの。


 つまり、こっちから入って向こうで出たってわけッス。


 本来なら私が行けばいいんでしょうが、出す場所をジュマが認識していないと空間倉庫から出られないんで、八彩を行かせたッス。


「……」


 いくつかの魔導具をポケットに。


 それからハローと転移用、二丁のスピールをベルトに差し入れると、うなずいて合図する八彩。


 音もなく跳んで、二階、三階と上がっていくッス。


 私からは見えないッスが、どう動くかは分かるッスよ。


 三階に上がったら、そこから廊下を歩いて、お嬢様が目を開けても気づかれない位置に移動。


 そんで、異常がないことを再度確認し、右手にハロー、左手に転移用のスピールを持って構え、引き金を引く。


 ボッ。


 窓から覗いてみると、強射の金聖魔法きんせいまほうが発動して、お嬢様の全身が金色の炎に包まれたッス。


「!」「!」「!」「!」


 今回、銃声のない無音設定にしてるッスが、魔法の気配で四人とも起きたようッスね。


「桜ちゃん!」「桜!」「桜ん!」「桜ー!」


 一斉に声をかけるみなさん。


 お嬢様に残ってた翼魔さんは少しだったし、威力の強い強射なんで、一秒ほどで焼き尽くしたッスね。


 燃えるものがなくなって炎が消え、眠ったまま元の女子高生に戻ったお嬢様。


 そこへすかさず──。


 転移用スピールの引き金を引いて魔法を発動。


 身体の真ん中から吸い込まれるようにして、お嬢様を安全な場所へ移動させたッス。


「桜ちゃん!」


「くっ……」


「どこだ」


「ファック!」


 怒りと悔しさをあらわにするみなさん。


 大丈夫ッスよ。


 全員、すぐに偽りでつくられた楽園から出してあげるッスからね。

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