第24話 悪い大人

「ああいうのが悪い大人の典型だと僕は思うなあ」


東屋を去ったバルセロンダの背中を見送りながら、ハウテンスがつぶやく。


「兄貴分だなんて言ってみたけどさ。バルスはどっちかっていうと、手のかかる弟分だよねえ?」


無邪気とか純粋とか言いたいのではないのだろう。

たぶん、考えが足りないと言いたいのだ。

ハウテンスにとっては、思考しない人間はゴミみたいなものだから。

バルセロンダは面倒くさがりで、必要以上に物事を考えることが嫌いだから。


「バルセロンダが悪い大人だっていうのも手のかかる人っていうのもわかるけれど、なぜ私に好きな人がいるなんて言ったの」

「傍から見ている大人の意見を聞きたかったんだよ。ほら、五年間も婚約者決めずに候補者を侍らしている王女だなんて不名誉な噂が流れるのはいやだろう?」

「それは、確かにいやだけれど……」


バルセロンダに意見を求めなくてもいいのではないだろうか。

それとも敏いハウテンスは気づいているのだろうか。

結局、尋ねる勇気がなくてラナウィははぐらかした。


「結局、バルセロンダと熊虎騎士団長とかいろいろと話していたけれど、どういう話なのかしら」

「今回の闘技会だけど、言い出したのは隣国でも、乗り気なのは熊虎騎士団なんだよ」

「熊虎騎士団は魔獣討伐でしょ。確かにバルセロンダは今も魔獣狩りにでかけているけれど、あそこの騎士団に所属しているの?」

「あそこの団長って伯爵家の次男なんだけど完全にお飾りなんだよね。あんまりに頭が足りなくて魔獣討伐の長になったはいいけど、貴族の子弟囲って、雑用はバルセロンダみたいな平民出身の騎士に押し付けてるんだ」

「なんですって?」

「そういえば、お父様が魔法局の介入も断ってきたと話していたけど、もしかしてそれも関係ある?」

「魔法士を使わずに魔物の討伐に出向いているの!?」


騎士団はもちろん剣術に秀でた者たちの集団ではあるが、魔法士たちの援護があるのとないのとでは戦闘の楽さが段違いである。


「なぜ、そんなことを……」

「騎士の地位向上をさせること、そして魔獣討伐の戦利品を独占すること」

「地位向上はわかるとしても戦利品の独占ですって?」

「魔獣討伐は金になるってことさ。それで私腹を肥やしてる」


そういえば、昔ダンジョンは小遣い稼ぎだとバルセロンダが教えてくれたけれど、魔獣も同じように金になるということだろう。


「魔法士とか騎士とかどちらが偉いということはないけれど」

「人というのは競いたがるものなんだ。そして優劣をつけたがるんだよ」

「でも、それと『剣闘王』の後継者を引っ張り出すこととなんの関係があるの?」

「『剣闘王』の後継者が次期女王の伴侶として選ばれれば、必然的に騎士の地位もあがるだろ。ついでにそいつの後ろ盾になれば、王女も手に入る」


安易に聞こえる策ではあるが、きっと団長の中では最良で最善なのだろう。

人を馬鹿にしているものだけれど。


「だから、無理だって!」

「だからサンには期待してないって。バルスが出れば絶対に優勝だと思ったんだけど」

「ああ、確かに。バルスなら勝てるね」


サンチュリは自分の出場は力いっぱい否定するくせに、バルセロンダなら大丈夫だとする理由はなんだろう。確かに彼は強いとは言われているけれど。

ラナウィは彼の戦っている姿など見たことがないので、いまいちピンとこなかった。


「だけど、団長に妨害されてて出場しない。そのうえ、本人にもやる気がない。きっかけさえあれば、やる気になるようだけどねえ。さて、どうしたものかな」

「闘技会は剣も魔法も使っていいだよね?」

「らしいよ。それでも騎士の優位を疑わないところを見ると、あの団長も秘策があるんだろうけれど……ん、待てよ。参加条件って確か成人以上なら誰でも参加できるんだよね。ヌイト、たとえばこういう魔法はできる?」


ハウテンスがはっとして、紅玉の瞳をきらりと閃かせた。

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