第22話 考察(ハウテンス視点)

ハウテンスは自室の机に向かいながら、うーんと伸びをした。

今回の計画はなかなか楽しかった。けれど、なんだか心がもやもやする。

満足すべきなのに、納得できないような。


ハウテンスの婚約者候補であるラナウィはおっとりした少女だった。けれど一瞬の瞳の揺れが彼女の感情を物語っていた。五歳児にして、すでに感情を抑える訓練をしてきているのだろう。表情といえばたいていは笑みで集約されているような、感情を見せない少女だけれど、決して鈍感ではない。むしろ多感ですらあると思っている。


だから、彼女が感情を顕わに騎士に悪戯をしたいと言ったとき、ハウテンスは驚いたのだ。

一介の騎士相手に随分と感情をぶつけるものだ。話をきけば、そこそこ無礼だとは思うが、彼女がそこまで怒るほどのことではないと感じる。


結局、彼女が計画を頼んできたので、ハウテンスはさりげなく二人を巻き込む形に変えた。なんとなくラナウィをこらしめたいような気がしたからだ。

護衛として傍にいる男が、危険が迫っていると判断して王女を置き去りにするなんて考えられない。転移魔法陣は必ず二人に反応すると確信していた。


実際に、すべてはハウテンスの計画通りだったわけだが、やはりなんだかすっきりしない。二人が思ったよりも仲良くなったからだろうか。そんなことで?

つまり、つまらないと思うような何かがあった、ということだろう。


思考というのは存外、美しいものだ。きちんと納まるところに納まれば、ハウテンスを歓喜で満たしてくれる。今回も計画どおりに終わって綺麗で美しいはずだ。


「ああ、なんだか面白くないのか」


つまり刺激が足りなかったのだろうか。


閉鎖空間での出来事は、ヌイトゥーラが水晶玉に映してみせてくれた。それを三人で東屋の中で観戦していたのだ。

ラナウィを巻き込んだことを知った二人は随分と慌てていたけれど、それも計画のうちだと言いくるめれば文句は言わなくなった。

突然騎士とラナウィが消えたことで『箱庭』も一瞬、ざわついたが隊長格の男が王女の意向だと宣言してくれたおかげで戻ってくるまで静かに待つという雰囲気になったのもよかった。


「次はどうつつけば面白くなるのかな」


知識を得るのは面白いからだ。

学んだ知識を活かすことも大好きだ。


けれど、つまらないことは嫌いだ。

それでいくと、『魔女王』の婚約者候補というのは最初に考えていたものよりも面白かった。ラナウィもヌイトゥーラも好感が持てるのも大きい。


実は、姿を現さない『剣闘王』の後継者にも興味があった。

どう考えても利益しかないのに、言い出さない理由はなんだろう。

言い出せないのか、気づいていないのか。


自分が『剣闘王』の後継者だと気付かないことがあるだろうか。


ハウテンスは自身の頬に触れてみる。

ヌイトゥーラも右手の甲というわかりやすい位置にあるけれど、過去の紋章の現れた場所は定まっているわけではない。背中や腕、肩といったこともあれば、尻や足の裏であったこともあったらしい。


つまり、彼は見えないところに紋章があるのだろう。

それに本人が気づいていない――?


どちらにせよ、いつまでも隠れていることはできない。

王族が本気を出して探しているのだから。

ちなみに、死んでいることはありえない。

三英傑は必ず『魔女王』のもとに集うとされている。そして、必ず一定の期間を一緒に過ごすのだ。


謎があれば解くことは好きだけれど、ハウテンスはやはりうーんと首をひねった。

なんだか魚の小骨が喉にひっかかったような気持ち悪さが付きまとっているからだ。

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