第17話
父さんの腹に拳を叩き込むと、二メートルぐらい後ろに靴をすり減らしながら下る。
「はぁ……はぁ……」
足はガクガク、右腕は恐らく複雑骨折で使用不可、魔力は雀の涙ほど、意識は消えかけ。
父さんの腹に穴を空ける勢いで殴ったのだが、これで吐血もしていなかったらもう俺に打つ手なしだ。
「はぁ……。子供ってのは、いつのまにか大きくなってるもんだな……」
「!」
父さんの方を見ると、口からたらりと血を流していた。
「合格だよ」
「よかった……」
安堵した俺は、その場で崩れ落ちて座り込む。
「だけどな、ちょっとした約束事をしていいか?」
「もちろんいいけど……」
俺の前まで来てしゃがみ、その内容を打ち明ける。
「俺は紫保を失った日から自分自身も、何も信じられなくなってたんだ。だからお前がこっちに来そうになった時も、どれが正解かとかわから無くなってたんだ……。でも、信じてみたいって思ったんだ。お前を」
組織のトップと並ぶほどの力の持ち主でも、弱い部分はある。結局父さんも人間なんだ。
人間ってのは複雑な生き物だけど、案外単純。だから、悩みに悩んでいることも、誰かの一言で解決するときだってある。
俺は、父さんも助けたいと思った。
「――お前を信じていいか、零紫」
〝言葉の暴力〟なんてものもあるくらい、言葉に力がある。だから、〝言葉の救済〟だってできるんだ。
だから俺は、迷うことなく父さんにこう答えた。
「――勿論」
握り拳を父さんに突き出す。父さんは優しく微笑みながら、拳を握ってコツンとぶつけ合った。
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「さて、無事にゼノくんの試験に合格して、傷の回復もした事だし、ひと段落だね」
母さんの形見である魔剣は腰に携え、現在、俺は父さんにおんぶされながらトップの話を聞いている。そしてちょくちょく父さんの頰をつねる。
これぐらいしても父さんに怒られる筋合いは絶対に無い。あんだけ俺をボコボコにしたんだし。
この歳になっておんぶは流石にアレかと思うが、別にここにいる六人以外見てないだろうし、大丈――。
「あ、そうそう。さっき言ってたアンケートについてだけど、さっきの戦いとか今の様子全部組織のみんな見れてるからね?」
「――…………へ?」
トップの方を見ると、最初に俺を導いていた白い玉がこちらをじーっと見つめているように見えた。
え? 見られている? さっきから今の状況も全て??
「えと……ぁぁ……っ」
言葉が何も出ず、顔から火が吹き出そうなほど真っ赤になっているだろう。
先程の台詞やら、今の状況やらを見られていたと思うと、穴があったら入りたいと切実に思うばかりだ。
「耳まで真っ赤だァ〜! 面白〜〜い!!」
「ガッハッハ! 愉快愉快!!」
「いい顔するじゃない……。もっと辱めを与えましょ!!」
性別不明モノクロ、自称年配小学生、金髪の魔女という順で今の俺の感想を口にしていた。
この組織の上はドSしかいないのかよ!
「大丈夫だ零紫! 思い出アルバムに撮っておきたいくらいいい顔してたぞっ!」
父さんはマジで黙ってろ! 満足げな顔でサムズアップをするんじゃない!!
「投票の結果、約七割が君の所属を承諾してくれたよ。つまり、第一関門通過だね」
「喜ぶべきところですけど、今喜べる場合じゃないです……」
「コメントもいっぱい来てるよ。『あのゼノから血を出すなんて何者?』、『強くてかっこいい。許可するッ!』、『普通に名言頂きました』、『赤面顔で新たな扉が開いた気がしました。責任取ってください』、『普通に怖い』、『最後の照れ顔が決定打でした』とか色々だね」
「素直に喜べるコメントと喜べないコメントの差がすごいんですけど」
「とにかく、おめでとう」
パチパチと手を叩きながら祝うトップ。
「いや、取り敢えずそのカメラ(?)を止めてくださいよ!!」
「ふむ、もうちょっとみんなに見せてあげようと思ったけど、流石にやめておくか。……はい、止めたよ」
はぁ〜〜……。やれやれだな。
「試験に合格したと言っても、本所属はまだしていない。だから彼女――シエル君に魔術を行使することは諸々の事情で許可できない」
「まあ結論、〝各総隊長全員の試験を合格しろ〟ってことですね」
「うん、そういうことだよ」
伊集院さんを救うタイムリミットは今日を合わせてあと四日しかない。だから今日からでもその試験をやりたいけれど……。
「もお動けん……」
傷は回復してもらったけれど、疲れなどは溜まっている。だから疲れたし、眠いし、とても戦える感じじゃない。
「今からアナタのい父親と大事な話するから、眠ってもらうわ」
「えっ」
金髪の魔女の人が、人差し指を俺の額にピタッと当てる。すると、意識が微睡み、眠りについてしまった。
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「……で? 大事な話とは? 悪いがお付き合いとかは無理だぜ?」
「そんなの無いに決まってるでしょう……。アンタあの女に一途だし、今はその零紫にぞっこんじゃない」
「自分の子供は好きに決まってるだろ!」
金髪の魔女が凰心に向かってやれやれと言葉を零す。
「話を戻すわよ。単刀直入に言うけど、ワタシの隊だったあの子――シエルは、もし復活したとしても魔術隊副隊長の座に就かせないことにしたわ」
「そりゃまたなんで……。あー、そーゆーことね。いい性格してるわ、お前」
「そう言うアンタもいい性格してるじゃない。わざと合格させたんでしょ?」
「手加減はしていたが、合格させる気は無かった」
はっきりと否定する。
「確かに零紫を倒すのには一秒も要らなかったけど、最後のあの一撃は本当に体内をボロボロにさせられたよ」
「なっ!? ……アンタの子供ってだけでやっぱ化け物だったのね……」
ジトーッと零紫を見つめる魔女。他の二人も珍獣を見ているかのように目をキラキラさせていた。
「すごいねぇ〜! 見直したよ〜!!」
「蛙の子は蛙。化け物の子は化け物だったようじゃなぁ」
零紫が眠りについている中、散々化け物扱いされるのであった。
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