第18話

「…………暇だ」


 裁判を終えたあと、俺は眠っていたが、次に目が覚めたら自宅のソファの上であった。

 日付は変わっていなかったし、まだ日も落ちていないから一瞬で地球の裏側まで行ったことになる。

 だけれども、試験は明日からスタートということになった。早く試験をして伊集院さんを救いたいが、ここで逆らってしまったら元も子もない。


「暇だ〜」


 気分を変えるため、俺は机の上に置いてあったリモコンを手に取り、ピッとテレビをつけた。


「……野球か」


 テレビでは野球の試合がやっているところだった。野球といえば、伊集院さんと一緒に野球系の異能力を持った奴を相手したことあったな。

 確かあれは、俺がシャワーに入っている時……――。



###



「あー……。今日も疲れたなぁ」


 今現在はシャワーを頭から浴びている最中だ。今日も学校からの帰り、伊集院さんに連れられて戦闘に巻き込まれて大分疲労困憊だ。

 水を浴びると疲れがそのまま流れ落ちて行くようだ。


 ――ドンドンドンドン!!


「ギャアァ――ッ!!」


 突然風呂場のドアを叩かられる音がして、つい悲鳴をあげてしまった。


『零紫く〜ん! 今すぐ出るんだー! 任務たぞ〜〜』


 ドア越しに伊集院さんの影が見える。というか、もうごく普通に不法侵入をしてくるようになったな、こいつ。


「俺はゆっくりシャワーを浴びたいんだ! 残念だったな」

『えぇ? あ、じゃあボクが背中流してあげるよ! 水着がいい? それともタオル一枚? それか何も無し?』


 な、なんて魅力てk……ゲフンゲフン! そんなのやっていいはずがない。俺はそんな誘惑には惑わされないぞ。


「からかっても無駄だぞ」

『むぅ〜……。それじゃあ、キミが棚に隠してあったこの〝数量限定高級ぬれ煎餅〟をボクが食べてもいいのかな〜?』

「なっ!? 卑怯だぞ!!」


 俺が行列に並んでまで手に入れたあのぬれ煎餅。それを人質(?)にとるとはなんて邪悪な……!


「すぐ出るから食べるんじゃないぞ!」

『キミって簡単に動くねぇ……。キャスター付きの家具かな?』


 その後はシャワーを一瞬で済ませ、リビングの椅子に向かい合って座りながらぬれ煎餅を一緒に食べている。


「わっ、この煎餅すごく美味しいね!」

「ふっふっふ、そうだろう。なんせ数量限定の品物だからな。味わって食べ……」

「…………」


 俺が『味わって食べろよ』と言い切る前に、伊集院さんはペロリと煎餅を平らげていた。とても物欲しそうな表情をしていたので、もう一袋だけあげた。

 まあ、伊集院さんの幸せな顔が観れたから、オッケーです。


「それで? なんでまたこんな日が沈んだ後に俺の家に来たんだ」

「あ、そうそう! 任務に行くよ!!」

「……今から? シャワーを浴びたばかりなんだが……」


 煎餅を口に放り込み、ジトっとした眼をしながらそう言った。


「行き先はバッティングセンターだよ!」

「……一ついいか、伊集院さん」

「なんだい?」

「シャワーはなぜ浴びる?」

「汗や汚れを落とすためだね」

「じゃあ普通にバッティングセンターに行く理由は?」

「汗をかいてストレス発散するためだね。

「二度言わなくていいんだよ……。……本当にいい性格してるわ」


 もしやシャワー後を狙っていたのか? それだったら、相当タチが悪いぞ。


「シャワーを浴びていたのは知らなかったよ、ごめんて。でもいいじゃないか! 真夜中のデートだぜ?」


 デートねぇ……。本来ならば甘美な響きだが、俺が今から行くのは死と隣り合わせになるかもしれないデートなんだよ。

 甘美なんて言って味わってられるか。その甘味には致死性MAXの毒が入ってるかもしれないんだよ。


「ねぇ、いいでしょ〜? 帰ったら本当にボクが背中流してあげるってば」

「一日に二回もシャワーなんか入りたくないんだが。……というか、俺を連れて行くなら詳細を確認させろ」

「よし! 承諾も〜らいっ!」

「一度も承諾してないんだが!?」


 やれやれと思いながら煎茶を飲む。……余談だが、煎餅のお供と言ったら煎茶だろう。そうだよな?


「コホン、それじゃ今回の事件を詳しく説明しよう。ここから最寄りのバッティングセンターにて、行方不明者が多発する事件が起きてるんだ」

「行方不明になって帰ってきた人は?」

「いないよ。相手は異能力者で、実在しないバッティングセンターを作り出してそこに転移させているらしい。中に侵入した組織の一人から目的を聞いてみると、『イカサマなしで百本連続ホームランしてみろ。そして相応しい選手になれ』とのことだ」

「えぇ……。連続ホームランさえ難しいのに百本? そんなの無理だろ……。しかも選手育てたいなら普通に育てろよ……」


 今回の相手も中々面倒臭そうだな。


「伊集院さんは連続ホームランできるのか?」

「野球は好きだけど、流石に魔術とかなしだったら無理に決まってるよ。だから、

「でもイカサマ無しで連続ホームランしないと出られないんだろ?」

「だからキミが必要なんだ。イカサマをするにはボク以外にもう一人必要なのさ」


 ……まさかとは思うが、俺は囮役か?


「今回はボクが囮役だよ」

「そりゃまたなんで」

「そのことは後々詳しく話すことにしよう。さっ、そうと決まればレッラゴ〜っ!」


 そして俺たちは眠る街へと繰り出し、バッティングセンターへと向かう。

 数分雑談をしながら歩いていると、目的地に到着した。ごくありきたりで、なんの変哲も無い場所だ。


「ここで行方不明者が続出中なのか。警察とかは来てるのか?」

「いんや、ボクらの組織が調査してるからまだ知らされていないはずだ。さっ、中へ入ろう」


 言われるがまま、俺は中へ入った。

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